平成26年度は小型圧縮装置を製作し、LPSO型マグネシウムの1つであるM85-Y9-Zn6一方向凝固材(18R)の圧縮中弾塑性変形下における微視的な構造変化を、放射光X線を利用した回折法により測定した。試料表面で観察できる結晶粒からの情報のみが測定できるよう、8 keVの低エネルギーX線を利用した。積層方向(c軸)が圧縮方向に対して垂直方向となる結晶粒1つ1つについて、通常のMgの構造で測定される基本反射、および長周期構造特有の超格子反射の回折強度を測定し、モデル計算と組み合わせた。その結果、弾性変形から塑性変形する際に、単位格子内の積層面から外れているY原子が、積層方向に規則的にシフトしている可能性を見出した。このような構造変化は、セラミックスのようなイオン結合している結晶では構造相転移として説明がつくが、金属材料においては極めて珍しいケースである。 平成27年度は先の珍しいケースをより明らかにするため、加えて、キンク強化の機構解明の考察のため、同種の試験片で圧縮負荷中の試料表面観察と、放射光異常分散法による基本反射・超格子反射の同時測定を行った。試料表面の観察のためにデジタルマイクロスコープを購入し、圧縮負荷中でキンクバンドが発達していく過程を記録しながら、各過程での異常分散効果が反映された回折強度測定を実施した結果、平成26年度の結果で明らかにしたY原子のシフトの可能性を改めて確認した。本結果は、Y原子がシフトすることで結晶構造内にピン止め効果のような状態を発生させ、積層方向、面内方向の原子変位の自由度が拘束されることで弾性変形することができず、塑性変形してしまうというシンプルな考え方で説明がつけられる。一方、キンク強化に関しては、キンクバンドが発生する前後で回折強度分布が大きく変わることから、結晶粒内変形が何らかのかかわりを持っている可能性を見出した。
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