研究領域 | 分子アーキテクトニクス:単一分子の組織化と新機能創成 |
研究課題/領域番号 |
26110503
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
小林 範久 千葉大学, 融合科学研究科(研究院), 教授 (50195799)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | DNA / 分子ワイヤー / 静電伸長 / 光電機能 / 電気化学発光 |
研究実績の概要 |
特徴ある電子機能を示すDNAに導電性および発光機能を有する異種分子を複合した組織体を,櫛型電極間に伸張固定した光電機能DNAナノワイヤーを作成し、集合体レベル,単一鎖レベルでの電子・光特性を定量的に測定,組織体構造との相関を明確にすることを目的とする。具体的には,DNAを鋳型として利用し,光触媒でアニリン(An)二量体(PPD)を光重合すると,光触媒を分子レベルで含み構造的・光電機能的に特徴あるDNA /導電性ポリアニリン(PAn)複合体を合成できる。得られる高次複合体は,特徴ある電子機能を示すDNA,p型導電性高分子PAn,受光・発光分子である光触媒が高次に配列された構造を持つ。このDNA複合体を電極間に伸張固定したDNA組織体分子ワイヤーを今年度作成した。 1.主鎖長56μmのDNA溶液を電極間隔25μm櫛型金電極表面に展開し,電極間に1 MV/m・500 kHzの高周波・高電界を与えることで,DNAを電極間に単一鎖レベルでナノワイヤーとして伸長固定した。AFMによる高さ解析から,伸長固定されたDNAナノワイヤーはDNA1~3分子から構築されていることが明らかとなった。 2.このDNAナノワイヤー基板をカチオン性Ru錯体を含む水溶液に浸漬した。DNAナノワイヤーの蛍光顕微鏡観察において洗浄後もRu錯体に基づく発光が認められ,Ru錯体がDNAナノワイヤー上へ安定的に固定されていることが示唆された。 3.このDNA/Ru錯体ナノワイヤーを用いてアニリン二量体 (PPD)の光重合を行った。AFM像観察から,得られた組織体はワイヤー構造は取っているもののワイヤー表面に100nm程度の凝集体が確認された。光触媒であるRu錯体がナノワイヤー上に偏在したためPAnの凝集体が形成されたと考えられる。次年度に向け、DNA複合体単分子ワイヤー作成のための最適条件を確立する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高周波・高電界による静電伸長法を用いることで,主鎖長56μmのDNAを電極間隔25μm櫛型金電極間に,DNA1~3分子からなる分子ナノワイヤーとして伸長固定できることが明らかとなった。また,このDNAナノワイヤー基板をカチオン性Ru錯体を含む水溶液に浸漬することでRu錯体をナノワイヤー上に安定固定でき,発光性を示す光電機能DNAナノワイヤーの作成も可能となった。Ru錯体固定DNAナノワイヤーはDNAナノワイヤーよりも優れた電流電圧特性を示すことも確認している。さらに,このナノワイヤーに固定されたRu錯体を光触媒としてアニリン二量体PPDの光重合を行ったところ、DNAナノワイヤー上へのPAnの形成が認められた。ここまでにおいてほぼ計画通り順調に研究は進行している。 現時点での問題点は,PAnを複合化させたDNA/PAnナノワイヤーにおいて,得られた組織体はワイヤー構造は取っているもののワイヤー表面に100nm程度の凝集体が確認されたことである。光触媒であるRu錯体がナノワイヤー上に偏在したためPAnの凝集体が形成されたと考えられる。目的がDNAとPAnが単一鎖レベルで複合化したDNA複合体単分子鎖ナノワイヤー作成であるため、特にPPD光重合の条件を精査し,最適条件の確立が必要である。しかしながら,この課題に関しては今後の研究の推進方策に示す方法論で解決の糸口を見いだせると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
前年度課題の解決と新しい電極系でのDNA複合体単一鎖ナノワイヤーの実現,さらにはDNA複合体ナノワイヤーの光電機能の評価に重点を置き研究を推進する。 1.前年度課題としてDNA/PAnナノワイヤーは作成できたもののワイヤー表面に100nm程度のPAn凝集体が確認された。光重合をPPD溶液に漬けたまま行っているため,PPDの過剰供給が要因として考えられる。希薄溶液系の利用やPPDを静電固定したのちに光重合を行うなど解決策を見出すことができると考えている。 2.前年度,電極間隔25μmの櫛型電極を用いたため単一鎖での電極間伸長が困難であった。今後は電極間隔3μmの鋸歯電極を用いて検討を行う。これまでの櫛形電極系におけるDNAナノワイヤーの構築,評価に関する方法論の確立も併せて,鋸歯電極においても単一鎖からなるDNA/Ru錯体ナノワイヤーの構築を図る。さらにPAnをナノワイヤーに均一に修飾するための光重合最適条件を確立する。 3.得られた単一鎖DNA/PAnナノワイヤーの光・電子特性を解析,評価する。これまでにPAnを組織化した方で高い電流電圧特性が得られており,DNA/PAn単一鎖ナノワイヤーにおいても確認を行うとともに,Ru錯体のみを固定した系との違いについても評価する。電気特性評価に関しては領域の先生方との議論を頂き,分子レベルでの電荷輸送特性を定量的に評価解釈できるようにする。 4.Ru錯体は優れた交流駆動型電気化学発光(AC-ECL)特性を示し,駆動原理,方法論を確立している。本研究においてもDNAに付加したRu錯体がAC-ECLを示す可能性は十分ある。前年度検討できなかった有機溶媒系および蒸気圧のないイオン液体を電解質として用い,DNA/PAn単一鎖ナノワイヤーの分子素子ならびに単一鎖機能としてのAC-ECLの発現を目指す。
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