金属ナノワイヤーを分子素子として活用するには、ナノワイヤーの精密な配線技術を確立するとともに、外部刺激に応じてナノワイヤーの構造および性能を自在にスイッチングできることが重要な課題となる。我々はこれまでに、二つの同種・異種金属イオンを高選択的に集積化できる有機ナノリング型配位子を開発し、さらにリング外周部を適切に化学修飾したナノリングが自己積層することによって、柔軟な構造を有する超分子ナノチューブが形成することを明らかにした。本課題では、超分子ナノチューブの高い金属集積能と優れた構造柔軟性を活用することにより、形状や組成といった金属ナノワイヤーの構造制御に加えて、ナノワイヤーの機能と物性を動的にスイッチングできる柔軟な金属ナノ電線を構築し、これらの精密配線技術の確立を目指した。例えば当該年度は、2つの白金イオンが導入されたナノリング二核白金錯体の合成法を検討し、これらの錯体がおおむね純度よく合成できることを見出した。また、ナノリングのモデル分子を活用することによって、リング内に銀イオンとルテニウムイオンを同時に集積化できる可能性を示した。また、金属イオンの代わりにプロトンを用いることによっても同様の集積構造を形成できることを明らかにした。加えて本課題では、超分子ナノファイバーが基板上の電極間に配列化するという知見を得たことに加え、電極間に配列化したナノファイバーの電気伝導性の評価についても研究を進めた。これらの知見は、超分子ナノファイバーやその内孔に金属イオンを含んだ金属ナノワイヤーを分子素子として活用する上で重要な結果であると考えられる。
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