公募研究
化学的・物理的個性の宝庫で多様な結合様式や幾何構造をもつ金属錯体ユニットを連結し、高次構造系を作ることは、新物性・新機能創出の観点で興味深い。申請者は、二相界面合成法を用いて多層および単層の新規二次元材料、ニッケラジチオレンπ 共役シートの合成に成功した。これは導電性錯体ナノシートの初例である。本研究では二相界面合成法を用いての多層および単層の多種類の錯体πシート(メタラジチオレン、メタラジセレノレン、ジイミン金属錯体、ビス(テルピリジン)金属錯体)を合成し、形状・構造決定を行い、レドックス特性を解明する。また電子伝導性などの物性のレドックス状態依存性を明らかにし、有機FET 等への応用を探求する。主な成果を以下に示す。(1)ニッケラジチオレン錯体ナノシートについて、化学的な酸化還元が可能であること、また酸化体は還元体に比べ高い伝導度を示すことを明らかにした。さらに、合成直後のナノシートは金属的バンド構造を有することをX線光電子分光ならびにDFT法による電子状態計算により明らかにした。(2)エレクトロクロミック特性(電圧印加による可逆的な色変化)を示すテルピリジン鉄ならびにコバルト錯体ナノシートを合成し、これらが速い電場応答性、高い繰り返し特性を示すことを明らかにした。このナノシート用いて電場により色調変化を示す全固体デバイスを作製した。(3)ジピリナト亜鉛錯体部位からなる金属錯体ナノシートを合成し、光電変換能を示すことを明らかにした。またジピリナト亜鉛金属錯体の一次元ワイヤは光電変換機能を示すのみならず、カーボンナノチューブとのハイブリッド体が良好な熱電変換能を示すことを明らかにした。
1: 当初の計画以上に進展している
研究実績の概要にある(1)について、これは金属的なバンド構造を有する錯体ナノシートの初例であり、またそのバンド構造を直接観測した初例である。(2)について、このテルピリジンナノシートは、シートのレドックス能を実デバイス機能にまで応用した初例である。本研究では、ナノシートが有する規則的な空隙がデバイス動作中における良好なイオン伝導に寄与している可能性を見出した。(3)について、これは光機能性錯体ナノシートの初例である。本研究では、ナノシートが同様の化学構造を有する単分子膜より優れた光電変換能を示すことを明らかにした。これらのように、当初の予想を上回る非常に質の高い重要な成果が数々得られており、本研究は当初の計画以上に進展している。
(1)について、硫黄原子を窒素原子やより重いカルコゲン原子であるセレンやテルルに置換する、またはニッケル原子をパラジウムや白金に変えた錯体ナノシートの合成を試みる。これらの新規ナノシートでは、強いスピン軌道相互作用に基づく特異な電子物性(例えばトポロジカル絶縁性)や、触媒機能を示す可能性がある。(2)について、中心金属を銅や亜鉛などに変えることで、エレクトロクロミックだけではなく磁気特性など他のユニークな物理物性を示すナノシートの創製を目指す。(3)について、今後はより高い発光機能、光電変換機能を示すナノシート、ナノワイヤの実現を目的として、ジピリン配位子を化学修飾した亜鉛錯体ナノシート・ナノワイヤを合成し、その光機能性を調べる。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 2件、 査読あり 8件、 謝辞記載あり 8件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (30件) (うち国際学会 15件、 招待講演 15件)
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