公募研究
そのスピンを古典的なベクトルとして扱うことができない低次元量子スピン系は、これまで化学的手法によるバルク物質とバルク測定手法がその主な研究舞台だった。これに対し本研究では、金属表面に磁性分子を物理吸着させたヘテロシステムと分子マニピュレーションを用いて低次元量子スピン系を構築し、スピン偏極走査トンネル顕微鏡(STM)による磁化測定を通してその興味深い量子物性を解明し、さらに新たな量子物性の開拓を目指すことが本研究の目的である。本年度は、先行研究で酸素分子が低次元量子スピン系を形成することが期待されているAg(111)表面で、酸素分子薄膜を低温蒸着により成長させ、その構造を低温STM を用いて明らかにし、次に、構造が明らかになった酸素分子薄膜に対し、スピン偏極STMを適用し、膜厚により変化することが予想される酸素薄膜の磁性を明らかにすることを目標としていた。現在までのところ、低温吸着によりAg(111)表面上にアイランド上の酸素分子層を確認し、その構造を分子分解能により確認した。その構造解析を行ったところ、低温LEEDによって確認されていた、固体酸素のアルファ相と同様な構造を確認することができた。さらに、先行研究から予想される物理吸着酸素分子の脱離温度とほぼ同じ温度域においてアイランド上の酸素分子層が脱離することを確認し、観察した酸素分子層が物理吸着分子であると結論づけることができた。
2: おおむね順調に進展している
当初の目的であった酸素のアルファ相の実空間観察に成功し、先行研究である低温LEEDと昇温脱離スペクトルの結果を再現することに成功したことは、目標の達成に向けて非常に大きな進展であると考える。一方で、極低温での物理吸着に大変時間を要してしまったため、スピン偏極STMによる磁性の観察までを達成することができなかった。
次年度以降は、今回観察した酸素分子層の磁性を調べることが緊急の課題である。そこで、Ag(111)基板上でスピン偏極STMを用いて調べられている磁性薄膜を用いてスピン偏極探針の同定を行い、その後に同様に酸素分子の極低温物理吸着を行う。また、酸素分子による低次元構造を構築することも本年度中に達成すべき課題である。今回観察されたような酸素分子層から酸素分子を取り出すか、もしくは酸素分子層に探針によって欠陥を導入し、一次元もしくは二次元の構造を構築を目指す。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (20件) (うち招待講演 5件)
表面科学
巻: 未定 ページ: 未定
The Journal of Chemical Physics
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10.1063/1.4894439
Journal of the Physical Society of Japan
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http://dx.doi.org/10.7566/JPSJ.83.054716