研究領域 | 分子アーキテクトニクス:単一分子の組織化と新機能創成 |
研究課題/領域番号 |
26110511
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
松下 未知雄 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (80295477)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 有機磁性導電性共存系 / 有機ラジカル / 有機導電体 / 磁気抵抗 |
研究実績の概要 |
本研究の目標の一つは、これまで40K程度に留まっていた、有機磁性-導電性共存系における磁気抵抗発現温度をさらに引き上げることである。その目的から、スピン源として3個のラジカルを置換した分子を設計した。理論計算からは、磁気抵抗発現温度と相関するスピン分極率はスピン源の個数にほぼ比例して上昇することが示され、3つのラジカルを置換することで100K程度の発現温度が期待された。実際に分子を合成し、その磁気抵抗を測定したところ、280Kの室温においても、5Tの磁場の印加に対し、-0.2%の負の磁気抵抗が観察された。この結果は上述の理論計算による予測(期待値)を大きく上回っているが、室温における常磁性1/2スピンのスピン分極率は約1%であり、2重交換モデルに基づけば、仮に局在スピンによる伝導電子のスピン分極効率が100%であったとしても磁気抵抗比は0.01%を超えることは無いことから、磁気抵抗比に関しても、これまでのモデルでは説明が付かない。この分子においては3つのラジカルを置換するため3回対称性を持つ有機ドナー骨格を用いているが、このことからフロンティア軌道が縮退している。この3回対称性が、構造を固定した場合でもスピン1個の反転により崩れ、フロンティア軌道の縮退が破れることが、理論計算から明らかになった。さらに、それに基づく軌道エネルギーの変化が、磁場の印加による酸化還元電位の変化として観察されている。室温で負の磁気抵抗が観察されたのみならず、単分子レベルで分子機能を制御する新たな方法論が見出されたという意味からも意義深い結果といえる。 一方、単分子計測に関しても、領域内の単分子計測を専門とする他の複数のグループと打ち合わせを行い、その内容に基づきすでに試料を提供するとともに新たな分子設計を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
単分子計測に関してはまだ実現していないものの、すでに着手しており、新たな設計に基づく分子に関しても合成を開始した。一方、磁気抵抗発現温度の向上に関しては、すでに達成することができ、さらにその実現には新たなメカニズムが関与することが明らかになった。また、少数分子クラスターにおける系統的な磁気抵抗測定に関しても、領域内共同研究により、数ナノメートルギャップの電極の作成に関する指導を受けられる見込みである。 このように、研究項目により進捗に差はあるものの、すでに目標を達成した項目もあり、研究機関内に当初予定の成果が得られると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
26年度に見出された、新たな室温負性磁気抵抗系について、X線結晶構造解析を行い、メカニズムをさらに明らかにする。単分子計測に関しては、領域内共同研究をさらに進めるほか、新たに設計・合成した分子についての検討も進める。特に、巨大磁気抵抗素子やトンネル磁気抵抗素子の単分子モデルとなる分子の合成を行い、単分子レベルでの巨大磁気抵抗発現を目指す。また、数ナノメートルのギャップをもつ電極を作成し、少数分子クラスターにおける磁気抵抗効果を系統的に測定することで、磁気抵抗発現温度と分子間相互作用の相関関係を明らかにする。 また、本来の提案内容とは異なるものの、領域の一つの目標である、脳型の動作をする分子コンピュータについて、回路ネットワークの構成要素となる、電流や電圧によって可逆的に単分子導電特性が変化する分子の開発も進める。
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