研究実績の概要 |
神経幹細胞は、発達期の脳において全ての神経細胞・グリア細胞を産生するのみならず、成体脳にも存在して脳機能に重要な役割を果たす。しかし、神経幹細胞が終生に亙って未分化性を維持し、かつ適切な時期に細胞を分化させて神経ネットワークを構築する分子機構には、不明な点が多い。本研究は、幹細胞の未分化性に密接に係わる糖鎖であるLex抗原に注目した。これまで、脳におけるLex抗原を生合成する酵素はFut9だと考えられていたが、Fut9ノックアウトマウスがほぼ正常に発生・発達し、脳にも大きな異常が観察されないことが大きな矛盾点であった。研究代表者は、独自の視点から、神経幹細胞特異的に発現する新規の_1,3-フコース転移酵素Fut10を同定し、幹細胞の未分化性維持に働いていることを明らかにした。本研究では、Fut10の基質特異性などの酵素学的解析や、Fut10が生合成するLex抗原を含有する糖鎖の同定を行うことで、神経幹細胞の未分化性維持のメカニズムを明らかにする。 平成26年度までに、ES細胞や神経幹細胞でFut10遺伝子を過剰発現/機能喪失させ、その表現型を解析した。その結果、Fut10遺伝子の過剰発現で未分化性が亢進し、ノックダウンでは逆に分化が促進されることを明らかにした。平成27年度は、Fut10遺伝子の過剰発現/ノックアウトES細胞やノックアウトマウスの作製・解析を行った結果、Fut10が内胚葉や神経の発生を制御することを示唆するデータを得た。また、興奮性神経毒による網膜神経細胞の修復過程においても、Fut10が重要な役割を担うことを明らかにした。
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