研究領域 | 統合的神経機能の制御を標的とした糖鎖の作動原理解明 |
研究課題/領域番号 |
26110714
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
神野 尚三 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (10325524)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ペリニューロナルネット / パルブアルブミン / GABAニューロン / 神経回路 / 可塑性 |
研究実績の概要 |
本年度の研究では、海馬のペリニューロナルネットのヘテロジニアスな発現様式を明らかにすることを目指し、以下の成果を上げた。 (1) GABAニューロンのサブクラスとWFAレクチン標識ペリニューロナルネットの関係について、各種の分子マーカーと内側中隔へのトレーサー注入実験を組み合わせるステレオロジー定量解析を進めた。これにより、WFAレクチンによって可視化されるペリニューロナルネットは海馬のパルブアルブミン陽性GABAニューロンの中でも、O-LM型や内側中隔投射型には形成されておらず、バスケット型に特異的に形成されていることを明らかにした。これらの結果は、WFAレクチンで標識されるペリニューロナルネットが海馬のGABAニューロンのサブクラス特異的に形成されていることを示した初めてのものであり、Journal of Comparative Neurology誌に掲載された。 (2) 上記の解析を進める中で、ペリニューロナルネットの有無とパルブアルブミンの発現レベルに相関がある可能性が示唆された。このため、コンドロイチナーゼABCの海馬内注入によりペリニューロナルネットを溶解し、組織化学的実験と分子生物学的実験によりパルブアルブミン発現レベルを定量的に解析した。これにより、ペリニューロナルネットが形成されているニューロンではパルブアルブミンの発現レベルが高く、ペリニューロナルネットがなくなるとパルブアルブミンの発現レベルが低下することが示された。本研究の結果は、ペリニューロナルネットはパルブアルブミンの発現レベルの制御を介して神経可塑性に関与している可能性を示唆する興味深いものであり、European Journal of Neuroscience誌に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ペリニューロナルネットとGABAニューロンとのサブクラスとの関係についての解析は、順調に進行しており、当初の予想とは異なる知見も見出されている。さらに、加齢変化やパルブアルブミン発現レベルとの関係など、プロジェクトは広がりを見せている。既に2本の原著論文を神経科学の分野で評価の高い国際誌に発表した。また国際学会における発表一回、招待講演を四回行っている。現在も二本の論文の発表準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は以下の2つのプロジェクトを中心に、研究を推進していく予定である。 (1) 海馬におけるペリニューロナルネットの主要構成成分であるアグリカンと、それに結合するHNK-1糖鎖の加齢変化の解析を進めている。組織化学的な実験では、グリカンの発現は加齢によって歯状回では減少するが、アンモン角では変化しないことや、HNK-1糖鎖の発現が背側海馬のアンモン角と歯状回で上昇するが、腹側海馬では変化しないことが分かっている。また、抗認知症薬であるメマンチンによってそれら変化が抑えられることも示された。今後は、生化学的な解析によってアグリカンやHNK-1糖鎖の発現量を定量的に明らかにする予定である。 (2) これまでの研究で、WFAレクチンがバスケット型PV陽性GABAニューロンに特異的に形成されていることを明らかにしたが、今年度はペリニューロナルネットを構成する他の分子 (アグリカン、HNK-1糖鎖、リンクプロテイン) とGABAニューロンのサブクラスの関係について明らかにする予定である。現在までに、WFAレクチンとは異なり、内側中隔投射型にアグリカン陽性ペリニューロナルネットやHNK-1糖鎖陽性ペリニューロナルネットが形成されることを見出している。今年度はそれらをステレオロジー定量解析によって評価する予定である。
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