当該年度の研究では、海馬のペリニューロナルネットのヘテロジニアスな発現様式を明らかにすることを目指し、以下の成果を上げた。 (1) GABAニューロンのサブクラスとアグリカン陽性ペリニューロナルネットの関係について、各種の分子マーカーと内側中隔へのトレーサー注入実験を組み合わせるステレオロジー定量解析を進めた。これにより、アグリカン陽性ペリニューロナルネットは、海馬のパルブアルブミン陽性GABAニューロンの中で、axo-axonic型には形成されず、バスケット型、O-LM型、内側中隔投射型に形成されていることを明らかにした。これらの結果は、バスケット型のパルブアルブミン陽性GABAニューロンだけに特異的に形成されていたWFAレクチン標識ペリニューロナルネットとは異なるもので、海馬のGABAニューロンのサブクラス特異的に、構成成分の異なるペリニューロナルネットが形成されていることを示した初めてのものである。 (2) 上記の解析を進める中で、Cat-315糖鎖 (アグリカンコアタンパク質に結合することが知られている) 陽性ペリニューロナルネットの海馬における発現強度が加齢に伴って変化することを見出した。また、その変化は背側海馬が主体であり、抗認知症薬であるメマンチンによって抑制されることを組織化学的・生化学的実験によって明らかにした。これらの結果は、海馬のGABAニューロンの機能制御因子としてのペリニューロナルネットのこれまで知られてこなかった役割を示唆するものである。
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