研究領域 | 統合的神経機能の制御を標的とした糖鎖の作動原理解明 |
研究課題/領域番号 |
26110725
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
鈴木 匡 独立行政法人理化学研究所, 糖鎖代謝学研究チーム, チームリーダー (90345265)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | Ngly1 / ENGase / 中枢神経 / 糖タンパク質 / 品質管理 |
研究実績の概要 |
本研究では、Ngly1の中枢神経系におけるKOマウス、あるいはNgly1-KOの胚性致死を回避するNgly1-Engase-ダブルKOマウスの表現系の解析を通じてNgly1の中枢神経系における生理機能を明らかにし、また細胞レベルの解析によりタンパク質凝集体形成が病態に影響する可能性を検討した。マウスについてはダブルKOマウスについて、加齢とともに中枢神経系の欠損に起因すると思われるさまざまな行動異常が観察された。また、これらの異常はNestin-Creを用いた中枢神経特異的KOマウスでもより顕著に見られたことから、中枢神経系におけるNgly1の重要性が明らかになった。一方Ngly1-KOマウスは非近交系であるICRマウスとの掛け合わせのF2世代では胚性致死にならず、一部生まれてくることが明らかになったものの、その表現型(行動異常、生存率)はダブルKOに比べて極端に重篤であり、ENGaseによる表現型緩和の効果が非常に強いことが明らかとなった。また細胞レベルの解析では、Ngly1-KOマウス由来の細胞を用いてモデルタンパク質の分解過程を調べたところ、通常よりも分解が遅延することが分かった。興味深いことにNgly1-KO細胞においてもそのモデルタンパク質はENGaseによって糖鎖が脱離されることが明らかとなった。ENGaseによる糖鎖脱離はタンパク質にGlcNAc一残基を残すが、このモデルタンパク質においてはN-GlcNAcタンパク質が細胞内凝集体として蓄積し、結果分解に遅延が見られた。一方ENGaseとNgly1の両方を欠損した細胞ではモデルタンパク質の分解は正常だった。以上の結果から、ENGaseが特にNgly1が機能不全の状況で糖タンパク質に直接作用し、N-GlcNAcタンパク質を生成することが明らかとなり、この現象がNGLY1欠損症の病態発現に関わる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Ngly1-KOの各種マウスの解析は順調に進んでおり、非近交系マウスで胚性致死が回避されるなどの新しい結果も得ることができた。また細胞レベルの解析でNgly1欠損症の病態に関係すると思われる表現型を観察することに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
マウスの解析に関しては、ダブルKOマウス、Nestin-Creによる中枢神経特異的KOマウスの詳細な表現型解析を進めるとともに、とくにN-GlcNAcタンパク質の蓄積に着目した解析を進める。また、C57/BL6において胚性致死であるNgly1-KOについて、非近交系のマウス由来ではその致死性が回避されることから、C57/BL6において胚性致死につながる原因のアリルが存在することが想定される。そのアリルを他の近交系マウスとの掛け合わせで生存可能なNgly1-KOマウスが産まれるような掛け合わせを探し、その産仔のゲノムを解析することで原因アリルを同定する。また、細胞レベルの解析では、ENGaseの阻害剤がタンパク質(N-GlcNAcタンパク質)の生成、凝集を抑える可能性があり、Ngly1欠損症の治療のターゲットになる可能性が考えられることから、ENGaseの阻害剤を高スループットにスクリーニングできるような系のアッセイ系の確立を目指す。
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