公募研究
O-マンノース型糖鎖の異常は中枢神経障害を伴う先天性筋ジストロフィー症の原因となることから、O-マンノース型糖鎖が脳の発生過程や機能において重要であることが示唆されている。最近、O-マンノース型糖鎖に多様な構造が存在することやO-マンノース型糖鎖修飾を受けるタンパク質が報告されるようになってきた。我々は昨年度に、神経突起伸長などに働く、受容体型タンパク質チロシンホスファターゼ(RPTPβ)がHNK-1構造を有するO-マンノース型糖鎖が修飾されていることを報告している。本年度は、RPTPβのO-マンノース型糖鎖にはHNK-1構造の他にSSEA-1[Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAc]構造が付加されていることを明らかにした。SSEA-1構造は脳の発生初期に多く発現していることが知られている。我々が作製したPOMGNT1欠損マウスの脳ではSSEA-1構造がほぼ消失していた。野生型マウスで検出されるSSEA-1構造はN型糖鎖の分解酵素であるPNGaseの影響を受けなかったことから、マウス脳で検出されるSSEA-1構造は主にO-マンノース型糖鎖上に存在すると考えられた。また、ポリLacNAc構造[-(3Galβ1-4GlcNAcβ1)n-]を認識するLELレクチンもPOMGNT1欠損マウスで消失していた。脳の発生過程における発現パターンや免疫沈降実験などの詳細な解析において、RPTPβとSSEA-1構造、ポリLacNAc構造、が同一の挙動を示しており、この結果はこれらの構造が同一のO-マンノース型糖鎖上に存在することを示唆している。SSEA-1構造は脳が形成される発生初期において最も強く発現しており、これらの構造が脳の発生において重要な役割を担っていることを示している。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、RPTPβのO-マンノース型糖鎖にはHNK-1構造に加えてSSEA-1構造やポリLacNAc構造が付加されていることを明らかにし、本糖鎖の非還元末端における多様性を示した。また、HNK-1構造はO型やN型糖鎖に広く存在していたが、SSEA-1構造は主にO-マンノース型上に存在することを明らかにした。実績報告には記載していないが、FKTN、FKRP、TMEM5などO-マンノース型糖鎖合成に関わると考えられているが未だ機能がわかっていない関連分子の酵素活性を特定し、本糖鎖の生合成機構の解明を目指す研究も進めている。また、特に本糖鎖の分岐構造の合成に関わるPOMGnT1、GTDC2、B3GALNT2、SGK196の基質特異性を解析し、O-マンノース型糖鎖の多様な構造の合成を制御し、各構造を使い分けるメカニズムについて検討を行っている。
今年度までの研究によりHNK1やSSEA-1構造など非還元末端側の多様な構造が明らかになってきた。今後これらの糖鎖構造の生理機能を調べるため、野生型マウスとO-マンノース型糖鎖の欠損マウスの脳標本を用いて、これらの糖鎖の発現部位や病理像を詳細に解析する。分岐構造の合成メカニズムについても、引き続きPOMGnT1、GTDC2、B3GALNT2、SGK196の基質特異性の解析を進める。FKTN、FKRP、TMEM5の機能を明らかにし、O-マンノース型糖鎖の生合成経路の全容解明を目指す。O-マンノース型糖鎖の合成開始酵素POMT1とPOMT2は複合体を形成して機能し、糖供与体としてドリコールリン酸マンノース(Dol-P-Man)を利用する。昨年度までにDol-P-Man合成酵素DPMがPOMT1-POMT2複合体と相互作用することを明らかにしていたが、さらに、Dol-P-Manの利用に関わる分子として知られるMPDU1もこの複合体に含まれることを見出した。Dol-P-ManはO-マンノース型糖鎖のみではなく、N型やGPIアンカー型などの糖鎖合成に利用される。予備的な知見であるが、この複合体がDol-P-Manを各糖鎖合成に振り分けるメカニズムに関わる可能性がある。そこで、POMT-DPM-MPDU1複合体の相互作用の実態と意義について解析する。
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