公募研究
研究代表者は、細胞間接触シグナを形成する2つの膜型分子CD47とSIRPαについて、これら分子のいずれかを全身性に欠損したKOマウスの脳内で、白質領域特異的にある種の活性化ミクログリアが増加することを見出しており、CD47-SIRPαシグナルによる白質ミクログリアの恒常性制御に着目している。本年度、白質の組織化学的解析を行ったが、KOマウスの白質において、脱髄などの明確な異常は見いだせなかった。一方、白質領域の割合が高い脊髄からミクログリアを単離し、フローサイトメトリーで解析する方法を確立することに成功し、ミクログリアの細胞特性を詳細に解析した。その結果、SIRPα KOマウスでみられるCD11c陽性ミクログリアは、CD11c陰性ミクログリアに比べて、Dectin-1、CD68などミクログリア活性化マーカーを強く発現するという、これまで組織化学的解析で見いだしていた性質を定量的に示す事ができた。さらに、灰白質領域由来と考えられるCD11c陰性ミクログリアについて野生型マウスとSIRPα KOマウスで比較したところ、SIRPα KO マウスでは、ミクログリア活性化マーカーの発現が増加していることが分かった。これらの結果から、SIRPα KOマウスでは、白質に限らず、ミクログリア全体がある種の活性化傾向にあると考えられた。さらに、加齢マウス脳のミクログリアでも同様の傾向を見いだした。また、コンディショナルKOマウスを用いた解析を行い、ミクログリアに発現するSIRPαの欠損がミクログリアの活性化の原因となることを示す結果を得つつある。また本研究に関連してSIRPαの下流シグナル分子Shp2についてKOマウスを作製していたが、このマウスについては神経機能の異常をあらたに見出したため、その内容を論文として報告した。
2: おおむね順調に進展している
脊髄からミクログリアを単離し、フローサイトメーターで解析する方法を確立した結果、各種の細胞マーカーを使って、SIRPα KO、CD47 KOマウスの脳内ミクログリアの恒常性変化を定量的に評価することができた。さらにこの実験系を用いて、KOマウスのミクログリアが加齢後の野生型マウスのミクログリアと類似の特性を示すことを明らかにしつつある。また、Cre-LoxPシステムを用いてミクログリア特異的なSIRPα KOマウスの作製を進めたが、前年度までの解析の結果、これまで用いてきたLysM-Creマウスでは、ミクログリアで十分に遺伝子組み換えが起こらないことが明らかとなり計画の進展に支障が生じていた。しかし、別のCreマウスを導入することでこの問題を解決し、ミクログリアに発現するSIRPα特異的な機能解析が可能となっている。以上より、計画は全体としておおむね順調に進展していると判断した。
アレイ解析などを利用して、KOマウスの白質内でミクログリア以外のオリゴデンドロサイト、アストロサイト、神経軸索なども含めて遺伝子発現変化を検討し、ミクログリアを活性化させる白質側の要因(ファクター)を見いだす。さらに、加齢に伴って、それらのファクターがどのように変化するのかを検討する。また行動解析により、ミクログリア活性化が高次脳機能へ与える影響を個体レベルで検討する。脱髄モデルなどの障害モデルを作製し、白質ミクログリア活性化の病態への影響を検討する。
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http://biosignal.dept.med.gunma-u.ac.jp/