研究領域 | 脳内環境:恒常性維持機構とその破綻 |
研究課題/領域番号 |
26111704
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
村田 茂穂 東京大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (20344070)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ミスフォールドタンパク質 / ユビキチン / 神経変性疾患 / プロテアソーム / SOD1 |
研究実績の概要 |
1. ミスフォールドタンパク質の核外運び出しに関与する因子の同定:GFP-SOD1(WT)は細胞質と核に一様に分布する一方、ALSの原因変異であるGFP-SOD1(G85R)はもっぱら細胞質に存在する。これは、変異型SOD1が特異的に核外排出されているためであることを明らかにした。さらにその機構を明らかにする目的で、哺乳類培養細胞を用いて変異型SOD1の局在を指標としたヒトゲノムワイドsiRNAスクリーニングを実施した。現在一次スクリーニングが完了し、変異SOD1の核外排出を阻害するsiRNAを数百種類同定した段階である。siRNAスクリーニングにはoff-target効果による偽陽性も多く、さらに新規のsiRNAを合成し二次スクリーニングを実施する。またSOD1と同様に神経変性疾患の原因として知られるTauやTDP-43についても、細胞内局在や凝集体形成を指標としたsiRNAスクリーニングを実施中である。 2. ミスフォールドタンパク質の細胞内動態に影響を与える因子の神経変性における病態生理的意義の解析:上記の解析で同定された各因子について、神経変性・神経細胞死における病態生理的役割を、神経細胞および線虫・ショウジョウバエのモデル生物個体を用いた解析により明らか試みを計画している。プロテアソーム機能低下は構造異常タンパク質の細胞内挙動に大きく影響を与えることから、プロテアソーム機能減弱ハエ系統に対して、網羅的に過剰発現系統を交配することにより、構造異常タンパク質の細胞内動態に影響を与える新規因子の同定を試みた。その結果、変異SOD1やTDP-43の細胞内凝集形成およびそれに伴う神経変性を抑制する因子Xの同定に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
変異型SOD1の局在に変動を与える因子が存在することが哺乳類培養細胞を用いたsiRNAスクリーニングにより明らかになり、研究は順調に進展している。SOD1のみならず、構造異常タンパク質全体の細胞内挙動を把握する目的で、TauおよびTDP-43といった、神経変性疾患の原因となりうる別のタンパク質の挙動を指標としたsiRNAスクリーニングのアッセイ系の構築にも成功し、一次スクリーニングを開始したところである。これらの解析を通じて、各構造異常タンパク質により引き起こされる特異的な病態、および共通する病態の理解への足がかりを作ることができた。 またショウジョウバエを用いた遺伝学からは、これまで全く機能未知であった分子Xを同定し、ユビキチン化した変性タンパク質の凝集を抑制することによりプロテアソームによる分解を促進していることを明らかにしたことは、この分野の理解に大きく貢献する研究成果である。
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今後の研究の推進方策 |
1.ミスフォールドタンパク質の核外運び出しに関与する因子の同定:変異型SOD1の局在制御機構については、二次スクリーニングを準備中であり、候補因子を絞り込んだ後、その作用機構および構造異常タンパク質を核外へ運び出すことの病態生理的意義について、培養細胞および動物個体(今年度内には線虫・ショウジョウバエの系、長期的にはマウスの系)で明らかにしていく。Tau, TDP-43のスクリーニングについても、一次スクリーニング完了次第、二次スクリーニング、機構解明、細胞および動物個体を用いた検討へと進展させる。 2.ミスフォールドタンパク質の細胞内動態に影響を与える因子の神経変性における病態生理的意義の解析:ショウジョウバエのスクリーニングで新たに見いだした分子Xについて、その作用機構をより詳細に解析するとともに、分子Xの欠損マウスおよびトランスジェニックマウスを作製し、神経変性モデルマウスと交配することにより、神経変性疾患に対する寄与について哺乳類個体において明らかにする。モデルマウスとしてSOD1 G93Rトランスジェニックマウスを予定している。また欠損マウスはCrispr-Ca9システムで作製することにより、マウス作製の期間が大幅に節約できることから、このシステムを取り入れる。
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