研究領域 | 脳内環境:恒常性維持機構とその破綻 |
研究課題/領域番号 |
26111706
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
野口 潤 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40421367)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 樹状突起スパイン / LTD / 長期抑制 / 2光子顕微鏡 |
研究実績の概要 |
シナプス可塑性は、記憶・学習の神経基盤であり、特に、大脳錐体細胞のスパインシナプスでは樹状突起スパインの形態変化と連動していることが知られている。我々はラット海馬培養スライスCA1 錐体細胞において、刺激されたスパインの収縮が誘導される条件を見いだした。意外なことに、この収縮は標的スパインから周囲のスパインに広がった。本研究では、スパイン収縮の広がりのメカニズムをイメージング解析している。 1. スパイン収縮のメカニズムの解析:シナプスの過剰な除去は神経疾患の病態の基盤となっている。我々は、アクチン切断タンパク質cofilin がスパイン収縮に関与するとの仮説を持っている。本年度は、野生型あるいは(活性型/不活性型)突然変異を有するcofilinタンパク質を用いて、スパイン内の動態について調べた。次年度も補助的なデータの取得を継続し、論文にまとめる。 2. シナプス脆弱状態の解析:in vitro / in vivo において、スパイン収縮を生じさせ、スパイン収縮誘導後、スパインが一定時間後に回復するのか、あるいは一旦消去されて、別のスパインが新生するのかを検討する。この目的のため刺激後に1日以上の長期にわたって再培養する実験系を検討中である。 また、スパイン収縮などをin vivo(生体)において低侵襲で長期解析するためのマイクロ流体デバイスの作製方法と実際の使用について共同研究者とともに論文にまとめた。 シナプス脆弱状態が逆行的にシナプス前部に影響を及ぼすか否かを検討するためのFRET(Forster resonance energy transfer) / FLIM (Fluorescence lifetime image microscopy蛍光寿命画像顕微鏡)プローブも新たに検討を開始した。次年度も継続して解析を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1. cofilin タンパク質の拡散距離の解析 photoactivatable (PA) -GFP-cofilinの2光子光活性化によるcofilin タンパク質の標識によって拡散を確認するデータが得られた。また、長期増強刺激によるスパイン体積増大時のcofilin タンパク質のスパインからの拡散を調べた。スパインの体積増加にcofilin 活性制御が関与していると考えられる。cofilinのシナプス可塑性時のふるまいについて、研究の新規性の観点からさらに補助的なデータを加えて論文投稿する予定なので当初目論見より遅れる。 2. シナプス脆弱状態の解析:in vitro長期観察実験系の構築が、他の項目の検討のため当初目論見より進捗しなかった。In vivo実験系については、方法論について共同研究者とともに論文出版することができた(Takehara, H. et al.)。 シナプス脆弱状態が逆行的にシナプス前部に影響を及ぼすか否かを検討するためのFRET(Forster resonance energy transfer) / FLIM (Fluorescence lifetime image microscopy蛍光寿命画像顕微鏡)プローブも新たに検討を開始し、これを用いたスパイン収縮の影響の解析を行って論文にまとめることを目論む。
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今後の研究の推進方策 |
26年度の課題を継続して実施するほか、今年度はスパイン収縮のシナプス前部に対する影響についても解析を実施する。 1. 樹状突起スパイン収縮の広がりがcofilinを本体とするものか否かを調べるために、本年度はcofilinの樹状突起内の拡散について調べた。また、長期増強(LTP)刺激によるスパイン体積増大時のcofilinタンパク質のスパイン内動態を野生型あるいは突然変異cofilinについて調べた。次年度は論文にまとめるための補助的なデータの取得を行う。 2-1. 培養ラット海馬スライス標本を、微生物感染をある程度抑制しながら顕微鏡観察に供して、観察後インキュベータに戻すことにより、刺激後の樹状突起を1日以上の長時間にわたって観察する。これにより収縮したスパインの長期的ふるまい(消滅あるいは再生成)について検討する。また、薬剤・タンパク質発現等で細胞内外の環境を変化させることによりスパインの生成あるいは消去にどのような影響が生じるかを検討する。 2-2. シナプス前部機能をSNAREタンパク質の分子間相互作用で可視化するFRET/FLIMプローブを現在新たに開発している。これを用いてスパイン収縮刺激が、どのような時間経過でシナプス前部に影響を与えるかを検討する。
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