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2014 年度 実績報告書

時差時における脳内時間環境の恒常性を担う神経分子メカニズムの解明

公募研究

研究領域脳内環境:恒常性維持機構とその破綻
研究課題/領域番号 26111710
研究機関京都大学

研究代表者

山口 賀章  京都大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (30467427)

研究期間 (年度) 2014-04-01 – 2016-03-31
キーワード概日リズム / 時計遺伝子 / 視交叉上核 / バゾプレッシン / 時差 / 遺伝子改変マウス
研究実績の概要

覚醒・活動・睡眠といった一日の生活リズムは、社会集団生活や個人の健康の基盤である。ところが、現代では経済のグローバル化に伴い、交替制勤務や夜間労働に従事するシフトワーカーが増加し、ついに27%を超えた。彼らは、夜に活動して昼間に眠り、自然の昼夜の明暗とは異なったサイクルで生活するため、血圧や代謝、ホルモン分泌等の24時間のリズムを司る概日時計システムが破綻の危機に陥っている。近年の大規模な疫学研究により、シフトワーカーが、肥満や糖尿病といった生活習慣病の頻度が高いことが判明したが、その原因は不明であり、なんら方策はとられていない。そこで、我々は、概日時計システムの中枢である脳の視交叉上核(SCN)をターゲットとした分子時間生物学研究を行い、arginine vasopressin (AVP)の受容体であるV1aおよびV1bを共に欠損したダブルノックアウトマウス (V1aV1bDKOマウス) が、時差を全く示さないことを見出した。しかしながら、SCN神経細胞におけるV1aおよびV1bがどのようにして時差を制御するかは依然として不明である。そこで、我々は、SCNの時差スクリーニングを継続して行った結果、AVPに関連したシグナル伝達が阻害されたマウスでも時差を示さないことを見出した (Vasopressin-related Signal Deficient (VSD)マウス)。VSDマウスは明暗環境の位相を8時間前進させてつくりだした時差環境下にて、V1aV1bDKOマウスと同程度の素早い再同調を示した。本研究の成果は、時差の分子神経メカニズムの解明に寄与するのみならず、シフトワーカーの病態に対する創薬の足がかりとなる点においても重要なものといえる。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

概日時計システムの分野の最も重要な特徴は、一つの遺伝子の変異が概日行動の異常として観察できることである。これまでは、概日行動リズムの周期の長短や、リズム性の消失といった点においてほとんどのリズム研究が進められてきた。このような中で、本研究の最もユニークな点は、時差環境下の行動を基に、概日時計システムの分子神経機構の解明にアプローチしていることである。すなわち、時差環境下での再同調スピードの異常の検出が、本研究のキーとなっている。しかるに、本年度において、我々は時差環境下でのVSDマウスの行動を詳細に解析することができ、VSDマウスの再同調スピードが、V1aV1bDKOマウスに勝るとも劣らないほどの素早いものであることがわかった。したがって、今後はVSDマウスのSCNにおけるシグナル異常に着目して、時差を制御する分子神経メカニズムを解明していきたい。
また、我々は数理モデルを構築することによっても、時差の制御機構の解明を試みている。これまでに、SCNにおける光受容細胞群として1つ、非光受容細胞群であるAVP細胞として2つの振動子という3振動体モデルを構築し、これが極めて忠実に、時差環境下の生体リズムの変遷を再現することを報告した。今回、我々はこの数理モデルをさらに発展させ、様々な時差シミュレーションが可能となった。さらに、シミュレーションの結果を我々は動物を用いて検証し、数理モデルの妥当性を確認している。

今後の研究の推進方策

時差の社会問題としては、慢性時差に基づくシフトワーカーの病態(ガンや生活習慣病)がある。そこで、本研究の結果見出した時差に関与する生体部位に、V1aやV1bのアンタゴニストのみならず、新規時差シグナルを制御する化合物を併用することで、より時差軽減作用をもつ時差治療薬カクテルとその投与法を見出し、これを時差環境下のマウスに持続投与することで、生体異常が改善されることを示す。
我々は、種々のコンディショナルノックアウトマウスを作成することにより、時差の分子神経メカニズムを解明を試みている。したがって、組織特異的なCre活性を持つマウスの構築が重要となる。我々はこれまでに、Rosa26-LacZマウスを用いて、各種Creマウスがターゲット領域において強力な活性を有することを確認しているが、それでも不十分な場合はウイルスベクターによりCreを発現させて実験を行う。時差分子シグナルの同定のため、時差異常マウスのスクリーニングは継続して行う。この際、ターゲット遺伝子の役割を検討するために、インヒビターの投与やAAVによるノックダウンを行う。時差環境下による多様なマウスの病態を得る必要がある場合は、肥満モデルのob/obマウスや免疫不全マウスあるいは老齢マウスに高脂肪食を摂取させるなどして負荷をかけ、病態の重症化をはかる。

  • 研究成果

    (10件)

すべて 2015 2014 その他

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 4件) 図書 (2件) 備考 (2件)

  • [雑誌論文] Ecto-domain phosphorylation promotes functional recovery from spinal cord injury2014

    • 著者名/発表者名
      Suehiro, K., Nakamura, Y., Xu, S., Uda, Y., Matsumura, T., Yamaguchi, Y., Okamura, H., Yamashita, T., and Takei, Y.
    • 雑誌名

      Sci Rep

      巻: 4 ページ: 4972

    • DOI

      10.1038/srep04972

    • 査読あり / オープンアクセス / 謝辞記載あり
  • [学会発表] 時差を担う分子神経機構2015

    • 著者名/発表者名
      山口賀章、岡村均
    • 学会等名
      第120回 日本解剖学会総会・全国学術集会 第92回 日本生理学会大会
    • 発表場所
      神戸国際会議場・展示場(神戸ポートアイランド)
    • 年月日
      2015-03-22 – 2015-03-22
    • 招待講演
  • [学会発表] 概日リズム形成におけるバゾプレッシンV1a, V1b受容体の役割2014

    • 著者名/発表者名
      山口賀章、岡村均
    • 学会等名
      第41回日本神経内分泌学会学術集会
    • 発表場所
      都道府県会館
    • 年月日
      2014-11-01 – 2014-11-01
    • 招待講演
  • [学会発表] Intercellular communication by vasopressin-V1a/V1b signaling in the suprachiasmatic nucleus has a key role in jet lag2014

    • 著者名/発表者名
      山口賀章、岡村均
    • 学会等名
      第87回 日本生化学会大会
    • 発表場所
      国立京都国際会館
    • 年月日
      2014-10-18 – 2014-10-18
    • 招待講演
  • [学会発表] 時差消失マウスの開発による概日リズムの頑強性を担う分子神経機構の解明2014

    • 著者名/発表者名
      山口賀章、鈴木 暢、岡村 均
    • 学会等名
      第64 回 日本薬学会近畿支部総会・大会
    • 発表場所
      京都薬科大学
    • 年月日
      2014-10-11 – 2014-10-11
  • [学会発表] 視交叉上核のバソプレッシン神経結合と時差2014

    • 著者名/発表者名
      山口賀章、岡村均
    • 学会等名
      第37回日本神経科学大会
    • 発表場所
      パシフィコ横浜
    • 年月日
      2014-09-11 – 2014-09-11
    • 招待講演
  • [図書] 医学のあゆみ2014

    • 著者名/発表者名
      山口賀章, 岡村均
    • 総ページ数
      2
    • 出版者
      医歯薬出版株式会社
  • [図書] 生化学2014

    • 著者名/発表者名
      山口賀章, 岡村均
    • 総ページ数
      6
    • 出版者
      公益社団法人 日本生化学会
  • [備考] 京都大学大学院薬学研究科 システムバイオロジー分野 ホームページ

    • URL

      http://www.pharm.kyoto-u.ac.jp/system-biology/

  • [備考] ライフサイエンス 新着論文レビュー

    • URL

      http://first.lifesciencedb.jp/archives/7777

URL: 

公開日: 2016-06-01  

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