公募研究
我々はマウス胎生期脳の嗅索形成を担う新規分子LOTUSを発見した。続いてLOTUSの相互作用分子としてNogo 受容体(Nogo receptor-1: NgR1)を同定した。NgR1はミエリン膜に存在する3種の神経再生阻害因子、およびTNFファミリーのBLySやコンドロイチン硫酸に共通する受容体で、神経細胞がNgR1を介してこれらの因子を受容すると神経突起伸長が著しく阻害される。このことから、NgR1は中枢神経系の再生を困難にする主要因と考えられているが、近年、国の難病に指定されている多発性硬化症(MS)では、自己免疫性脱随による神経変性の進行にNogoとNgR1の相互作用が深く関わることが多々報告された。LOTUSは強力なNgR1の内在性拮抗物質(アンタゴニスト)として働くため、NgR1の機能制御物質として最も有力な分子である。本研究では、内在性NgR1アンタゴニストLOTUSによる脳内環境制御法を確立し、MSの新しい治療法の創成を目的とし、LOTUS遺伝子欠損(LOTUS-KO)マウスやLOTUS遺伝子過剰発現(LOTUS-TG)マウスを用い、ヒトMS様の症状を呈する実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)モデル動物を作製し、MS様症状に対するLOTUSによる改善効果を検証した。まず最初に、EAEマウスから得たリンパ球を培養してLOTUSリコンビナント蛋白質を添加したところ、LOTUSはリンパ球に強く結合し、IL-17産生を惹起して免疫応答を増強させた。次に、LOTUS-KOマウスおよびLOTUS-TGマウスからEAEモデル動物を作製したところ、予想に反し、LOTUS-KOマウスでは野生型に比してEAE発症時期が遅れ、また発症度が抑制されていたのに対し、LOTUS-TGマウスではEAE発症時期は野生型とほぼ同時期であったが、発症度がやや増強されMS様病態が悪化していた。
2: おおむね順調に進展している
平成26年度に計画したリンパ球における解析と、LOTUS変異マウスを用いたEAEマウス作製とその表現型解析はほぼ終了した。EAEマウスから得たリンパ球を培養してLOTUSリコンビナント蛋白質を添加したところ、LOTUSはリンパ球に強く結合し、IL-17産生を惹起して免疫応答を増強させた。これは予想に反した結果で、LOTUSがリンパ球に結合することで免疫反応が増強し、MS様病態を悪化させたことを意味する。LOTUSは治療薬として奏功すると当初想定したが、逆に創薬ターゲットになる可能性が示唆された。次に、LOTUS-KOマウスおよびLOTUS-TGマウスからEAEモデル動物を作製したところ、これも予想に反し、LOTUS-KOマウスでは野生型に比してEAE発症時期が遅れ、また発症度が抑制されていたのに対し、LOTUS-TGマウスではEAE発症時期は野生型とほぼ同時期であったが、発症度がやや増強されMS様病態が悪化していた。これらのことは、LOTUSが過剰に発現するとMS様病態が悪化し、LOTUSが欠損することで病態改善が見られるという結果を示す。即ち、LOTUSを標的とした治療法が考えられることになる。
当初の予想に反した結果が得られたため、平成27年度に予定していた治療薬候補としてのLOTUSタンパク製剤の投与は病態悪化を招く可能性が考えられる。ただし、発症初期における結果である可能性も高く、発症後期の神経変性が進行する時期においては逆にLOTUS投与によって病態改善が見込まれる可能性も残る。従って、LOTUS投与が発症時期の違いによって異なる効果を示す可能性があるため、発症前期と発症後期に分けてLOTUS投与実験を行う。次に、リンパ球と結合したLOTUSの結合相手は、Nogo受容体ノックアウトマウスのリンパ球でもLOTUSが結合したことから、Nogo受容体以外の未知の結合分子が想定されるため、高効率で免疫沈降ができるSBP-FRAG-LOTUSを作製し、高効率免疫沈降法によって回収したLOTUS結合分子の同定を質量分析によって試みる。LOTUSと目的の結合分子との結合を阻害することが治療法の開発につながると考えられる。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (2件) 備考 (1件)
JAMA Neurology
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http://yokohama-cu-mbs-lotus.jp/