研究領域 | 脳内環境:恒常性維持機構とその破綻 |
研究課題/領域番号 |
26111723
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
岡野 ジェイムス洋尚 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (90338020)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 小脳失調 / 神経変性疾患 / RNA結合タンパク質 / 軸索輸送 / 細胞質・軸索間拡散障壁 |
研究実績の概要 |
神経特異的RNA結合タンパク質HuCのノックアウト(KO)マウスの小脳では神経回路が正常に形成されたのちに遅発性にシナプス脱落を伴ったプルキンエ細胞の軸索変性が起こるが、プルキンエ細胞は細胞死には至らない。電子顕微鏡による詳細な形態解析を行ったところ、球状に膨大した軸索においてミトコンドリアや滑面小胞体等の膜組織の蓄積が観察されたため軸索輸送の障害が疑われた。また、リボソームや核など細胞質に局在し軸索輸送されないはずの小器官が軸索膨大部に混入する所見が見られたことから、HuC KOでは軸索起始部(AIS)における細胞質・軸索間拡散障壁の機能不全が起こっていると予測された。そこで、以前に実施したRIP-CHIP法およびHITS-CLIP法により同定されたHuCの標的RNAのうち軸索輸送(KIF3A、KIF3C)、細胞質・軸索間拡散障壁(Ankyrin-G)に関与する可能性のある因子について解析を行った。HuC KOマウスのプルキンエ細胞ではKIF3A、3Cの発現が野生型に比べて有意に低下しており、培養細胞におけるKIF3A、3Cの強制発現実験により軸索変性を一部是正できることが示された。一方、HITS-CLIP法の結果(Ince-Dunn G, Okano HJ et al. Neuron. 2012)から、Huタンパク質はAnkyrin-G hnRNAのイントロン配列に特異的に結合してエクソン34の選択的スプライシングを調節することが示されている。KOマウス小脳RNAを用いたRT-PCRを実施したところ、野生型と比較してKOではエクソン34(11アミノ酸)を含有したバリアントが増加していることが示された。さらに抗Ankyrin-G抗体を用いた免疫組織染色により、KO特異的なAnkyrin-Gの細胞内局在異常が見られた。今後、Ankyrin-Gと結合するナトリウムチャネル(Nav1.6)およびスペクトリンのKOマウスプルキンエ細胞における局在を詳細に調べることによりAISの機能異常を示す知見が得られるものと期待している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は順調に進展しており、1年目の研究目的をほぼ達成した 26年度の研究結果では、7ヶ月齢,12ヶ月齢HuC KOマウス小脳の電子顕微鏡解析によりプルキンエ細胞の軸索膨大部において多くの細胞質小器官の蓄積が観察されたため、当初は軸索輸送障害を疑っていたが、細胞質・軸索拡散障壁の障害との関連性をも疑わせる知見が得られた。本研究は新たな段階に進んだといえ、当初の計画以上に進展している。 これらのデータをもとに、27年度の研究計画では大きな発展が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
軸索変性と軸索起始部(AIS)における拡散障壁機能障害との関連性を明らかにするために、 ① HuC KOマウスプルキンエ細胞におけるAnkyrin-G、ナトリウムチャネル(Nav1.6)およびスペクトリンの細胞内局在を詳細に調べる。②生化学的手法によりAnkyrin-G(エクソン34有りおよび無し)とナトリウムチャネル、スペクトリンとのタンパク質間相互作用を検討する。③Ankyrin-G(エクソン34有り、無し)を、HuC KOおよび野生型マウスプルキンエ細胞において強制発現させ軸索変性の消失、出現を検討する。
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