研究領域 | 脳内環境:恒常性維持機構とその破綻 |
研究課題/領域番号 |
26111731
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研究機関 | 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
若月 修二 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 疾病研究第五部, 室長 (00378887)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | プロテアソーム / オートファジー / タンパク質分解 / リン酸化シグナル / 軸索変性 / 神経細胞死 / ユビキチンリガーゼ |
研究実績の概要 |
神経変性疾患では神経細胞の死により脳の機能が低下するが,神経細胞死に先行して神経軸索の変性 (軸索変性,軸索が壊れること) が観察されている.軸索変性は酵素反応を介する能動的な過程であり,変性を阻止することが疾患の治療や症状改善に有効であることがさまざまな動物モデルで示されているが,変性を制御する分子メカニズムの詳細は永らく不明であった.研究代表者は微小管に着目した研究を行い,ダメージを受けた軸索内で微小管の構造を積極的に壊すメカニズムが作用して変性が促進することを報告した (Wakatsuki et al, Nat Cell Biol).本研究ではこの軸索を壊すメカニズムの「鍵分子」であるZNRF1の活性化メカニズム,並びにこれを起点とする細胞内シグナルの詳細を理解し,軸索の変性からの保護,さらには脳内環境を保全する方法論を確立し,その成果を神経変性疾患の治療に応用することを目的とした基礎的な研究を行っている. 具体的には軸索変性を含む神経変性を制御する「鍵分子」にZNRF1を位置づけ,① ZNRF1の活性制御メカニズムの解明,② GSK3Bを介する変性制御メカニズムの解明,③ 遺伝子改変マウスを用いたZNRF1の機能解析 の3つの基礎研究を並行して行い, ZNRF1のユビキチンリガーゼ活性が自身のチロシンリン酸化によって正に制御されること,GSK3Bを介する細胞内反応が神経軸索内オートファジーを調節し,神経変性を促進すること,などを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
軸索変性を含む神経変性を制御する「鍵分子」にZNRF1を位置づけ,① ZNRF1の活性制御メカニズムの解明,② GSK3Bを介する変性制御メカニズムの解明,③ 遺伝子改変マウスを用いたZNRF1の機能解析 の3つの基礎研究を並行して行った. 本年度は ① ZNRF1の活性制御メカニズムの解明については,ZNRF1のユビキチンリガーゼ活性が繊維芽細胞増殖因子受容体を介するチロシンリン酸化によって正に制御されることなどを明らかにした.興味深いことに,ZNRF1を介する細胞内反応の活性化は酸化ストレスが誘導する神経細胞死を促進し,反対に活性を阻害することが神経細胞死を抑制することが分かった.レドックス感受性GFPを利用したROS産生が生じる軸索内領域の同定については,レドックス感受性GFPの拡散を軽減する工夫やレドックス感受性小分子化合物の利用し検討を進めている.② GSK3Bを介する変性制御メカニズムの解明については,MCL1を起点とする軸索内オートファジー調節が軸索変性を促進する分子メカニズムの詳細が明らかになった.その他の機能解析については,培養海馬神経細胞をモデルに,ZNRF1を介する細胞内シグナルがaxon/dendrite specificationに関連する可能性が示唆された.
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今後の研究の推進方策 |
引き続いて,神経変性を制御する「鍵分子」にZNRF1を位置づけ,これを起点とする神経変性の制御メカニズムの全貌を分子細胞生物学的に理解するための基礎研究を行う. ① ZNRF1の活性制御メカニズムの解明-レドックス感受性GFPの拡散を軽減する工夫やレドックス感受性小分子化合物の利用しROS産生が生じる軸索内領域の同定を検討する.また,中大脳動脈閉塞術,ALS,FAD,パーキンソン病などの神経変性疾患モデルマウスを用いて,酸化ストレスの上昇が見込まれる神経細胞でのZNRF1 pY103レベルをイムノブロット,並びに免疫染色で検討し,病態との関連を明らかにする検索する. ② GSK3Bを介する変性制御メカニズムの解明-軸索変性過程において,MCL1はGSK3BによりS140がリン酸化される.S140に点変異を導入した非リン酸化型S140A,リン酸化模倣型MCL1 S140D/Eを強制発現させ,LC-IIを指標にしたイムノブロット,光学顕微鏡・電子顕微鏡観察により,軸索内オートファゴソーム形成の有無を,また軸索変性への影響を主にin vivoにおいて検証する.GSK3Bによってリン酸化されたMCL1はユビチンン化されてプロテアソーム依存的に分解される.現在,候補遺伝子を特定しつつあるので,過剰発現やRNA干渉により発現抑制させた場合のMCL1のユビキチン化,並びに軸索変性への影響を調べ,MCL1の分解制御に関わるユビキチンリガーゼを同定する. ③ 遺伝子改変マウスを用いたZNRF1の機能解析-培養神経細胞を用いて得られたZNRF1とaxon/dendrite specificationとの関連についてin vivoにおいて検証する.ZNRF1遺伝子の神経特異的欠損マウス,子宮内エレクトロポーレーションを利用した過剰発現,遺伝子発現抑制によって行う.
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