研究実績の概要 |
脳脈絡叢上皮細胞において、TRPV4を通って流入したCa2+がanoctamin 1(ANO1)を活性化してクロライドイオン流出をもたらしていることを見いだし、このTRPV4/ANO1機能連関は脳脊髄液分泌の分子機構の一つと考えられた。このTRPチャネルとanoctaminの機能連関は脈絡叢上皮細胞以外でも起こっているものと推定され、Ca2+透過性の高いTRPチャネルでは広く起こっている現象かもしれない。感覚神経細胞では細胞内クロライド濃度が高いので、ANO1活性化はクロライド流出をもたらし、さらに細胞の脱分極が進むと考えられる。マウス感覚神経でTRPV1とANO1の共発現を免疫染色法で確認した。HEK293細胞にTRPV1, ANO1を共発現させてパッチクランプ法で解析するとカプサイシン投与によって細胞外Ca2+依存的なANO1活性化によるクロライド電流の活性化が観察された。感覚神経細胞でカプサイシンによって引き起こされる内向き電流はTRPV1を介した陽イオン流入とANO1を介したクロライド流出の和を見ていると推定された。ANO1阻害剤によってマウス感覚神経のカプサイシンによる活動電位発生が有意に抑制され、カプサイシンの後肢投与による疼痛関連行動もANO1阻害剤で有意に減弱した。このように、TRPV1/ANO1機能連関は新たな疼痛増強メカニズムと考えられた。以前に、TRPM2が過酸化水素によって酸化されて機能増強することを明らかにしたので、それが、脳内ミクログリアで起こっているかどうかを検討したが、有意な関与は観察できなかった。そこで、膵臓β細胞に目を向け、膵臓β細胞において、グルコース負荷で過酸化水素が産生されてTRPM2を感作して機能増強が起こり、グルコースによる温度依存的なインスリン分泌に関わることを明らかにした。
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