研究実績の概要 |
早期卵巣機能不全症を患う女性は全女性人口の1-4%いると推定され、40歳以前の若齢において排卵が停止し不妊となる。私は卵胞成熟機構の詳細を明らかにすることで、より正確な診断と将来の不妊治療法改善の一助となるために研究を行っている。 哺乳類卵巣において、卵母細胞は複数種の体細胞に囲まれて球状の卵胞を形成する。最も未成熟な原始卵胞は休眠状態で長期間卵巣内に蓄えられ、これが活性化して卵胞成熟過程に入ると、性周期に従って成熟し排卵に至る。健康なヒト女性が約40年間周期的な排卵を継続できるのは、原始卵胞の休眠維持、活性化、その後の卵胞成熟をバランスよく保つ機構が働いているからだ。転写因子Sohlh1とSohlh2は卵胞の生存と原始卵胞の休眠維持に必須であることが明らかになっていた。私はマウスSohlh1の結合因子としてアルギニンメチル基転移酵素Prmt5を同定し、卵巣におけるPrmt5の生理的意義を明らかにすると共に、卵胞成熟機構におけるエピゲノム修飾の役割を解明することを目的として本研究を行った。Prmt5は様々な組織に発現しているため、生後の卵母細胞特異的なPrmt5ノックアウトマウスPrmt5/Gdf9iCre cKOを作成、表現型を解析した。cKOは若齢にて不妊となる表現型を示し、Prmt5が卵胞の正常な成熟と生存に必須であることが明らかになった。一方、cKO の表現型はSohlh1, Sohlh2ノックアウトマウスの表現型と大きく異なり、Sohlhsの発現量やたんぱく質局在にも何ら影響がないように見えた。従って、生後卵母細胞におけるPrmt5の主たる機能はSohlhsとは別個であることが明らかになった。 本研究により、Prmt5/Gdf9iCre cKOが早期卵巣閉鎖症の疾患モデルマウスとなることが示された。今後はその分子機構について解析を進めていく準備を行っている。
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