研究領域 | 生殖細胞のエピゲノムダイナミクスとその制御 |
研究課題/領域番号 |
26112511
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
宮川 さとみ 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任講師(常勤) (90291153)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | エピジェネティクス / DNAメチル化 / piRNA / 精子形成 |
研究実績の概要 |
生殖細胞特異的な非コード小分子RNAであるpiRNA (PIWI-interacting RNA) は、PIWIサブファミリータンパク質であるMILI(Mouse PIWI like)およびMIWI2(Mouse PIWI 2)を介して生合成される。piRNAは、センス鎖とアンチセンス鎖のRNAを前駆体として生合成され、IAPあるいはLine1といったレトロトランスポゾン遺伝子やインプリント遺伝子のde novo DNAメチル化に、そして、メチル化を介した遺伝子発現のサイレンシングに関与することを明らかにしてきた。 胎生期の雄性生殖細胞において、外来遺伝子であるEGFP遺伝子のセンス鎖とアンチセンス鎖を発現するトランスジェニックマウスを用いたモデル系を構築した。このモデル系では、EGFPに対するpiRNAが産生され、それを介したDNAのメチル化によりEGFP遺伝子のサイレンシングが生じていることが明らかとなった。 今回、このシステムが内在性遺伝子にも適用できるかを調べるため、胎仔期の雄性生殖細胞において発現するDnmt3L(DNA methyltransferase 3-like)を標的として、アンチセンス鎖を発現するマウスを作製した。その結果、このトランスジェニックマウスの雄性生殖細胞では、期待通りDnmt3L遺伝子に対するpiRNAが多数産生され、内在性のDnmt3LプロモーターにDNAメチル化が誘導されており、Dnmt3L欠損マウスと同様の表現型を示していた。以上の結果からアンチセンスRNAを用いたpiRNA依存的な遺伝子サイレンシングシステムが内在性遺伝子へも適用可能であると結論することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スタート時点での研究計画としては、以下の3つのテーマ ① piRNAを介した遺伝子サイレンシングのメカニズム解析、② 人為的piRNA誘導による内在性遺伝子サイレンシング法の開発とその解析、③ エピゲノム制御に関与する遺伝子のpiRNAを介した遺伝子サイレンシング、についての研究を展開することを計画していた。 ①に関しての詳細な解析は、現在進行中である。②に関しては、内在性遺伝子Dnmt3Lに対するアンチセンスDnmt3Lと胎仔精巣特異的に発現するマウスTg-Miwi2P-asDnmt3Lを作製し、解析をおこなってきた。外来遺伝子であるEGFP遺伝子のセンス鎖とアンチセンス鎖を発現するトランスジェニックマウスを用いたモデル系の結果を合わせて、Current Biologyに論文を投稿し受理されている。さらに、G9aに対するアンチセンス鎖を発現するトランスジェニックマウスを作製し解析をする予定であったが、作製したトランスジェニックマウスにおいて、アンチセンスG9aが十分に発現するマウスが得られなかった。③に関しては、H3K4メチル化酵素MLL(Mixed lineage leukemia)関連遺伝子とその共通co-factorであるASH2Lに対するantisense RNAを発現するマウスの作製をおこなっており、現在解析中である。 以上より、おおむね順調に研究が進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
人為的なpiRNA発現を介した雄性生殖特異的遺伝子サイレンシングシステムを駆使することにより、以下の研究を展開する。 ① piRNAを介した遺伝子サイレンシングのエピジェネティック遺伝の解析 新たに作製したTg-Miwi2-asEGFP マウスを、Tg-Oct4-EGFP に交配したダブルTgマウスを用い、piRNAによるDNAのメチル化による遺伝子発現抑制がエピジェネティック遺伝するかどうかを明らかにする。過排卵処理をした雌マウスとダブルTgの雄マウスを交配して受精卵を採取してEGFPの蛍光を、ブラストシストまで観察する。また、Tg-Oct4-EGFPのかわりに、全身性にEGFPが発現するマウスを用いて、Tg-Miwi2-asEGFP マウスと交配し、piRNAによるDNAのメチル化やエピジェネティック遺伝について解析をおこなう。 ② 内在性遺伝子のpiRNAを介した遺伝子サイレンシングとその解析 1)H3K4メチル化酵素MLL(Mixed lineage leukemia)関連遺伝子とその共通co-factorであるASH2Lに対するantisense RNAを発現するマウスを作製し、その解析をおこなう。 2)ミスマッチ修復遺伝子Msh2の異常により生じる、遺伝性非ポリポーシス大腸癌の一部は、Msh2遺伝子のエピジェネティック変異による発現異常が原因であると考えられている。そこで、Msh2遺伝子において、piRNAを介したDNAメチル化誘導をおこない、子マウスにおいて癌の発症頻度が上昇するかどうかを調べる。
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