本年度は前年度に引き続き、特定ゲノム領域に存在するタンパク質やRNAを同定するための手法開発を主眼に置いて研究を進めた。前年度までにパイロット版の実験系を構築したため、結合タンパク質が既に知られているゲノム領域に対してゲノムIP法を適用した。インシュレーターは、例えばエンハンサーとプロモーターとの相互作用を阻害するなど、ゲノム上の隣接する二つの領域を隔絶する働きをもつことが知られたエレメントである。この領域にはCTCFなど複数のタンパク質が特異的に局在する。この領域でゲノムIP法を適用したところ、同定されたペプチド数が多いタンパク質にはクロマチン上に多く存在するものが見られた。また、既知のインシュレータータンパク質であるPARPやCP190なども多く同定された。これらの結果は、ゲノムIP法によって、プロテオーム的に純度の高いタンパク質群が濃縮されたことや、特定ゲノム領域に存在するタンパク質を同定することが可能であることを示唆している。上記のタンパク質群に加えて、Mediator複合体中の複数のタンパク質がインシュレーター領域でのゲノムIPで同定された。現在インシュレーター機能に対するMediator複合体の役割を検証中である。 トランスポゾン上に存在するタンパク質を同定することは本研究の主眼の一つである。世界で広く使用されているCas9はStreptococcus pyogensから単離されたもの(SpCas9)だが、このCas9はヘテロクロマチンに効率良くアクセスすることが出来なかった。そこで、Staphylococcus aureusから単離されたCas9(SaCas9)を用いてChIPを行ったところ、このCas9はSpCas9に比べヘテロクロマチン領域に効率良くアクセスすることができることがわかった。現在SaCas9を用いたゲノムIPをトランスポゾン領域で行っている。
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