本研究では、「上皮管腔組織」のモデルとしてマウス肝臓の胆管系および肝実質細胞(肝細胞)に注目する。これらの組織・細胞で各種の蛍光タンパク質レポーター/プローブを発現させる系と、多光子励起レーザー走査型顕微鏡による観察手法を組み合わせることで、生体多次元イメージング解析を実施する。これにより、(1)組織恒常性維持に関わる肝細胞の挙動、および、(2)前駆細胞依存性再生過程における肝前駆細胞/胆管系の挙動と機能の2つの視点に基づいて、それぞれの組織動態を精密に追跡・解析する。さらに、それらの事象の背景を成す分子メカニズムの一端を解明することを目的としている。平成27年度には、主に以下のような成果を得た: ・胆管系が増生する際、これを構成する細胞の増殖は一様に起こるわけではなく、その一部に生体内において高い増殖能(クローン増殖性)を示す特殊な前駆細胞集団が出現する。数理モデル等を用いた詳細な解析により、このような前駆細胞集団が確率的(stochastic)に生じること、それらが組織の増生・形態変化の主要な要因となることを明らかにした。 ・肝障害に伴って誘導される胆管系の増生(細胆管反応)において、KLFファミリーの転写因子が、細胞周期関連遺伝子群の発現制御を介して胆管系細胞の増殖制御に重要な役割を担うことを明らかにした。 ・生体ライブイメージング(intravital imaging)系を用いた解析から、種々の肝障害に伴って、肝細胞間に形成されている毛細胆管構造の崩壊と胆汁の流れの変化が引き起こされることを見出した。さらに、これらが胆管上皮組織の構造変化を誘導する要因となることを示唆するデータを得た。こうした知見に基づき、障害時に誘導される細胆管反応の生理的意義に関する新たな仮説を構築した。 以上の成果について、国際誌にて発表を行うべく準備を進めている。
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