研究領域 | 上皮管腔組織の形成・維持と破綻における極性シグナル制御の分子基盤の確立 |
研究課題/領域番号 |
26112705
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
中村 哲也 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 寄附講座教授 (70265809)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 腸上皮幹細胞 / 上皮極性 / 小腸上皮 / 大腸上皮 / 3次元培養 |
研究実績の概要 |
吸収、消化、内分泌、免疫調節など多彩な消化管機能には、内側を覆う上皮組織が主要な役割を果たすが、上皮細胞集団が管腔構造を形成し維持する機構には不明の点が多い。本研究では、近年大きく進んだ消化管上皮体外培養技術を利用し、特に小腸および大腸上皮に着目することで、1) 小腸・大腸上皮がもつ部位特異的な管腔形成機構の解明、2) 上皮が管腔構造を構築する初期段階における調節機構の解明、および3) 管腔構造形成に関わる細胞内物質輸送機構の解析、を推進している。平成26年度には特に小腸・大腸上皮が部位特異的分化プログラムを維持する機構の解明に関し大きな進展があった。海外のグループと共同し、胎生期発生過程における腸管上皮を培養・移植すると大腸に生着することを確認した。しかもこの際、胎生期小腸より単離し移植した上皮が、生着後に一部大腸上皮形質を獲得することを見いだした。次に、成体由来の小腸上皮を異所性に大腸に移植する実験にも成功した。得られた異所性小腸移植片の組織学的・分子生物学的解析の結果、成体小腸幹細胞が大腸組織内で上皮組織を再生することがわかった。また移植後4週あるいは4ヶ月の時点においても、小腸移植片が小腸型吸収上皮細胞、パネート細胞など小腸に固有の分化細胞を維持し続けることも示された。このことは、マイクロアレイを用いた移植片上皮での発現遺伝子解析の結果でも支持された。さらに移植片上皮組織は、形態的にも小腸に特有な絨毛-陰窩構造を形成することも見いだした。これらの知見は、胎生期小腸上皮細胞を移植した際に見られる上皮可塑性を示すデータとは明らかに異なるものであり、したがって、成体における上皮境界形成に非上皮組織からの誘導シグナルは不要であり、小腸および大腸の固有の上皮形質や機能は上皮内因性にプログラムされる可能性を示す重要なものと考えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
腸管上皮研究に焦点を絞った本研究では本年度も一定の成果が得られた。1) 小腸・大腸上皮の部位特異的管腔形成機構の解明では、成体小腸幹細胞がもつ固有性の維持機構について解析した。すなわち、申請者独自の腸上皮移植実験システムを応用し、培養小腸上皮細胞を異所性に大腸に移植し、その挙動を観察することに成功した。このために、遠位大腸に限局した新規の粘膜傷害モデルを作成し、これに培養細胞を生着させる条件を見いだした。得られた異所性小腸移植片の解析の結果、成体由来の培養小腸幹細胞が移植後長期経過後においても、小腸型吸収上皮細胞、パネート細胞など小腸に固有の分化細胞を維持し続けることを明らかにした。さらに移植片上皮組織は、形態的にも小腸に特有な絨毛-陰窩構造を形成することも見いだした。これらの知見は、成体における小腸上皮の固有性維持には非上皮組織からの誘導シグナルは不要であり、小腸上皮内因性の機構が重要であることを示すものと考えた。2) 小腸・大腸上皮の管腔構造形成初期段階の解明では、単一の腸管上皮幹細胞が分裂・分化を経て複数の細胞集団となり、特有の3次元構造を構築し始める初期相を解析することを目指した。完全な単一細胞が数日の経過を経て複雑な管腔構造を形成する過程をリアルタイム観察するライブイメージング実験系はすでに構築した。これを利用し、本過程に関わる分子の発現や機能の解析を継続している。3) 管腔構造形成に関わる細胞内物質輸送機構の解析においては、3次元培養技術で嚢胞状構造として維持される腸管上皮細胞では、例えばp-glycoproteinなどのトランスポータの分子発現が生理的環境と同様に維持され、基底側から管腔側への分子輸送機構を保持していることをすでに確認した。嚢胞状構造の内容物の網羅的な解析で管腔内外の環境差を明らかにするプロジェクトを現在継続中である。
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今後の研究の推進方策 |
1) 小腸・大腸上皮の部位特異性維持機構の解析 1a) 部位特異性規定分子群の同定。1b) 小腸・大腸上皮細胞間の分化転換誘導の試み。海外のグループと共同し、胎生期小腸上皮を大腸に移植すると生着後一部大腸上皮形質を獲得することを見いだした(Cell Stem Cell 2013)。さらに成体由来の小腸上皮も大腸移植が可能で、この場合は小腸形質を維持することを見いだした(Genes Dev 2014)。今後は、培養小腸上皮細胞を異所性に移植した移植片上皮部をLaser Captured Microdissectionで単離し解析した発現遺伝子群の詳細な解析をおこなうことで、小腸上皮がその固有性を維持する機構を検討する。これら成果は小腸・大腸上皮間の人為的分化転換(トランスディフェレンシエーション)誘導に重要な知見を提供するものと考える。 2) 腸上皮管腔構造形成初期機構の解明 2a) 単一の腸管上皮幹細胞が管腔構造を構築する初期相の可視化。2b) 培養腸管上皮幹細胞が管腔を形成する際の分子挙動の解析。ここでは、単一の腸管上皮幹細胞が分裂・分化を経て複数の細胞集団となり、特有の管腔構造を構築し始める初期相を可視化する実験系を発展させ、複雑な3次元構造の形成過程を経時観察ができる空間・時間解像度を得る技術を確立する。 3) 管腔構造形成に関わる細胞内物質輸送機構の解析 3a) 培養腸管上皮細胞が管腔側へ分泌・排出する物質群の網羅的同定。3b) 正常腸管上皮が有する細胞内物質輸送機能・分泌機能解析。嚢胞状構造をとる培養大腸上皮細胞では、トランスポータの分子発現が生理的環境と同様に維持され、基底側から管腔側への分子輸送機構を保持していることをすでに確認した。本年度は、腸上皮オルガノイド内容物を採取し、網羅的な解析をおこなうことで、管腔内外の環境差を明らかにすることを目標とする。
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