公募研究
上皮管腔組織は、様々な形態の器官を構成している。これらの器官のほとんどは上皮細胞の頂端面に囲まれた管腔を持ち、ここで内容物の分解など上皮管腔組織に特徴的な機能を果たしている。しかし、上皮細胞集団の中で、管腔がいつ、どこに形成されるのか、また上皮細胞がどのように極性を獲得するのかなど、初期のステップについては不明な点が多い。我々はROCOファミリーキナーゼLRRK1が、イヌ腎臓尿細管上皮(MDCK)細胞の嚢胞形成において、新たな(de novo)管腔の形成に重要であることを明らかにした。昨年度までの研究から、LRRK1は細胞分裂(M)期の中心体において、M期キナーゼPLK1によって1790番目のセリンがリン酸化され、このリン酸化依存的にCDK1によって1400番目のスレオニンがリン酸化され活性化することを明らかにしていた。また、中心体で活性化したLRRK1は、中心体成熟に重要なCDK5RAP2をリン酸化し、中心体の微小管nucleation活性を促進することで、星状体微小管の形成及びM期スピンドル配向を制御していることを見出していた。今年度の解析で、LRRK1とCDK5RAP2の結合部位を検討したところ、LRRK1はCDK5RAP2のCM1モチーフと呼ばれる、種を越えて保存された領域で結合し、この領域をリン酸化していることを明らかにした。CM1モチーフは、CDK5RAP2と-tubulinとの結合に重要な領域であり、CDK5RAP2はCM1モチーフを介して-tubulinと結合することで微小管nucleation活性を促進している。我々は、LRRK1をノックダウンした細胞で、(1)CDK5RAP2と-tubulinの結合が減少すること、(2)CDK5RAP2による微小管nucleation活性が低下すること、を明らかにした。これらの結果から、LRRK1はCDK5RAP2のCM1モチーフをリン酸化することで、CDK5RAP2と-tubulinの結合を促進し、その結果CDK5RAP2依存的な微小管nucleation活性を促進している可能性が考えられる。
2: おおむね順調に進展している
これまで、LRRK1がM期中心体の微小管nucleation活性を制御し、スピンドル微小管の配向をコントロールすることで細胞分裂軸を制御している可能性を明らかにしてきた。この制御は、上皮管腔組織の管腔(lumen)を形成するのに重要なステップと考えられる。昨年度の解析から、LRRK1によるスピンドル微小管配向制御に関し、LRRK1の基質の同定および、LRRK1によるリン酸化の意義の解明が進み、LRRK1による制御機構のメカニズムがわかりつつある。今後は、リン酸化部位の同定を進め、その部位の解析などから、よりダイレクトに制御機構の詳細を明らかにしていく。
今後は、以下の点に焦点を絞り解析を行っていく。(1)LRRK1によるCDK5RAP2リン酸化部位の同定:我々は、LRRK1がCDK5RAP2のN末CM1モチーフと結合し、この領域をリン酸化することを明らかにしている。この領域には、LRRK1のリン酸化候補部位が複数存在することから、それらの部位をアラニンに置換した変異体を作製し、GSTリコンビナント蛋白質を用いたin vitroキナーゼアッセイを行うことで、リン酸化部位の同定を行う。(2)LRRK1によるCDK5RAP2リン酸化の意義の解明:CM1モチーフは、微小管nucleationに必須な因子-tubulinとの結合に重要な領域である。そこで、LRRK1によるCDK5RAP2のリン酸化が、CDK5RAP2と-tubulinとの結合を促進し、その結果微小管nucleation活性を制御している可能性について、検討する。具体的には、リン酸化部位の同定後、非リン酸化型CDK5RAP2及びリン酸化模倣型CDK5RAP2変異体をそれぞれ作製し、-tubulinとの結合、及び微小管nucleation活性に対する効果を検討する。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件)
J. Cell Sci.
巻: 128 ページ: 385-396
10.1242/jcs.161547