公募研究
基底膜の主要な分子であるラミニンは、α、β、γの3つの鎖からなるヘテロ3量体の糖タンパク質で、α鎖が5種類、β鎖が3種類、γ鎖が3種類存在し、それらの組み合わせによって、現在までに18種類の組み合わせが報告されている。上皮管腔組織の基底膜における主要なアイソフォームは、α5鎖、β1鎖、γ1鎖からなるラミニン-511であることが知られている。このラミニン-511は、上皮管腔組織において上皮細胞を秩序よく接着させているにもかかわらず、癌化した細胞では接着を破綻させ運動を促進させる。しかしながら、このラミニン-511に対する正常上皮細胞と癌細胞の挙動の違い、および基底膜形成のメカニズムについては十分に明らかになっていない。これまでに次のことを明らかにした。1.基底膜は上皮細胞と結合組織を繋ぐ構造体であり、上皮細胞は基底膜と結合するための受容体を細胞表面に発現している。この受容体の中で、ラミニン-511に結合するルテランが、細胞表面からMT1-MMPと未知のプロテアーゼによって切断され、細胞表面からシェディングされることを見出した 。このシェディングされたルテランは、切断後もラミニンに対する結合活性を維持し、上皮細胞と基底膜の接着に影響することが示唆された。また、シェディングされたルテランは血漿中に検出され、新たな腫瘍マーカーとして期待された。2.基底膜の主要な成分であるラミニン-511は、正常の上皮細胞を基底膜に安定的に接着させているにもかかわらず、癌細胞に対してはその運動を促進するという二面性の機能をin vitroにおいて示している。私達は、ラミニン-511に接着した細胞を、細胞運動しやすい状態に転換する因子の探索を行い、発癌プロモーターであるPhorbol 12-myristate 13-acetateが細胞運動を促進することを見出した。
3: やや遅れている
平成26年度は、(1)ラミニンα5鎖に対する細胞接着が管腔形成に与える影響の解明および、(2)ラミニンα5鎖の自己会合に関わるドメインの探索を目的として研究を遂行した。(1) は、ラミニンα5鎖の特異的な受容体であるルテランがプロテアーゼによって切断され細胞表面から放出されることを見出したが、この切断が管腔形成に及ぼす影響については明らかになっていない。また、発癌プロモーターであるPhorbol 12-myristate 13-acetateがラミニン-511上での細胞運動を促進することを見出したが、この細胞運動と管腔形成を関連付けることができていない。(2)は、ドメインを欠損させたラミニンα5鎖N末端の組換え蛋白質を作製し大量調製に成功したが、自己会合に関わるドメインの同定まで至っていない。この組換え蛋白質の調製に平行して、ラミニンα5鎖N末端領域のアミノ酸配列を網羅するペプチドの合成を行っている。
昨年度に引き続き、(1)ラミニンα5鎖に対する細胞接着が管腔形成に与える影響の解明および、(2)ラミニンα5鎖の自己会合に関わるドメインの探索を行う。さらに、(1)は細胞接着の破綻が管腔形成に与える影響の解明、(2)は自己会合に関わるラミニンα5鎖N末端のアミノ酸配列の同定を行う。これまでの研究で、細胞表面から放出されたルテランがラミニン-511への結合能を持つことを明らかにした。この放出されたルテランが、細胞の基底膜への接着を阻害するとともに、基底膜形成を阻害する可能性が高く、さらに管腔形成が抑制されると予想される。ラミニンの受容体側から、基底膜および管腔形成のメカニズムにアプローチする。また、ラミニン-511上で細胞運動を促進する条件を見出してきている。管腔形成の過程で細胞運動を促進させ、管腔および基底膜形成における細胞運動の役割を明らかにする。そして、ラミニンα5鎖N末端の組換え蛋白質を管腔形成の培養系に添加し、管腔および基底膜形成に必要なドメインを同定する。さらに同定されたドメインのアミノ酸配列を網羅した合成ペプチドを管腔形成の培養系に添加し、管腔および基底膜形成に必要なアミノ酸配列を同定する。
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