ヒト先天疾患の気管狭窄症やマウスの気管形成異常モデルでは、間充織である気管軟骨の異常により管腔が細くなる表現型が報告されている。これらの病理モデルの理解には気管の形態形成を理解することが重要である。さらに発生初期から生後に至るまで長期間にわたって上皮と間充織が同調して成長することも大切である。だが気管はマウスでも長さ約1cmに達する組織であり発生過程も数日に渡ることから、これまで形成過程を細胞レベルで詳細に調べた報告はごく僅かであった。 我々はマウス気管の管腔成長メカニズムの解明に取り組んだ。これまでに気管内腔の成長と、個々の上皮細胞の増殖、3次元構造変化の定量的な解析に取り組んだ。気管は胚発生を通して常に成長をつづけている。これまでの研究成果から、気管の成長は初期に起こる前後軸方向に沿った異方性の成長と、その後に続く軟骨に誘導される等方性の成長の2段階で起こることが明らかになった。軟骨無形成の変異マウスの解析により、後期の等方性拡大の動力は軟骨の発生、成熟であった。さらに、同変異マウスは上皮の偽重層上皮構造形成に失敗し、重層様構造を示していたことから、間充織と上皮の成熟化には相関性があることが示唆された。特に、軟骨が円周方向への拡大がE14.5からE18.5にかけて起こる上皮細胞の1)円柱形態への変化、2) 新たな頂表面をもつ細胞の出現が寄与し、その結果として気管内腔を拡大させている可能性が考えられた。さらに、気管が短くなるWntシグナル変異マウスを用いた解析から、初期の気管の異方性成長には間充織細胞の配向性が重要であること明らかにした。現在我々は、間充織細胞の配向性、形態変化を制御するWntシグナルのメカニズムの解明を進めている。結果がまとまり次第、国際学術誌に投稿の予定である
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