公募研究
無機代謝産物であるピロリン酸は、その濃度変化によって代謝機能、組織形成、形態形成に極めて大きな影響を与えることを見出した。ピロリン酸は、DNA、RNA、タンパク質、細胞壁の生合成、脂肪の代謝の過程で生ずる代謝副産物である。したがってピロリン酸を反応系から除去できなければ、上記の高分子合成は停止・抑制される。植物のピロリン酸代謝の調節の破綻が異常をもたらすことを示す知見を対象として、ピロリン酸とその加水分解酵素のバランスを実験的に検証することとした。ピロリン酸を無機リン酸(Pi)に加水分解するのは液胞膜H+輸送性ピロホスファターゼ(H+-PPase)と可溶性ピロホスファターゼ(可溶性PPase)であり、両酵素がPPi濃度を調節している。H+-PPaseと可溶性PPaseの機能欠失株は、根とシュートの生育不全、本葉の萎縮、花弁の萎縮などの表現型を示すことを見出した。個別成果を簡潔に記す。(1)液胞膜H+-PPaseと5種の可溶性PPaseについて、単一機能欠失株、多重機能欠失株を作成し、それぞれの表現型を解析し、顕著な形態異常を示す多重機能欠失株を見出した。(2)今後の研究展開に必要な可溶性PPaseに特異的な抗体を調製し、植物の各組織で可溶性PPaseを検出し、組織別の量的差異を明らかにした。(3)液胞膜H+-PPase機能欠失株では、硝酸のみが窒素源の場合は本葉が顕著に萎縮するが、アンモニアを添加すると表現型は軽減することを見出し、それぞれの状態の植物組織での可溶性PPaseの量と存在様式に差異のあることを明らかにした。(4)液胞膜H+-PPaseに単量体型緑色蛍光タンパク質(GFP)を適切な部位に導入することにより、H+-PPaseとしての機能を失うことなく、かつ、GFPの二量体化に人為的影響を排除したH+-PPaseの標識化に成功した。
2: おおむね順調に進展している
上述のように、液胞膜H+輸送性ピロホスファターゼ(H+-PPase)と可溶性ピロホスファターゼ(可溶性PPase)に注目し、H+-PPaseと可溶性PPaseの機能欠失株の解析を予定通りに進めることができ、根とシュートの生育不全、本葉の萎縮、花弁の萎縮などの表現型を示すことを見出した。その他、今後の実験研究に必要不可欠な可溶性PPaseに対する特異抗体を調製し、反応性を検定することができた。そして、液胞膜H+-PPaseの機能を失うことなく、GFPの二量体化に人為的影響を排除したH+-PPaseの標識化に成功し、細胞分裂後から伸長成長した細胞における液胞の挙動を解析できる方法を確立した。
(1)液胞膜H+-PPaseと5種のsPPaseの多重機能欠失株の表現型解析: 組織での異常細胞の形態を精査し電子顕微鏡解析および共焦点レーザ顕微鏡像でのデータから定性、可能であれば定量解析を試みる。発現遺伝子の特性、代謝産物の特徴も含めた解析の準備をする。(2)H+-PPase機能欠失株ではリン酸過剰で本葉が萎縮する現象の機構解明: 成長しつつある本葉をPi含有培地に接触させると組織内Pi濃度が上昇し、液胞膜H+-PPase欠失株では本葉の顕著な萎縮が見られる。葉の先端部にある排水組織からPiが取り入れられると推測している。細胞内Piの高濃度化が、PPiの加水分解を化学平衡論的に抑制するためと予測しており、PPiとPi濃度を定量して検証する。培地に過剰Piを与えた場合との比較も進める。(3)H+-PPase機能欠失株表現型に影響する硝酸とアンモニア栄養の差異: H+-PPase欠失株は、硝酸が窒素源の場合は本葉が顕著に萎縮するが、アンモニアを添加すると表現型は軽減する。H+-PPaseはPPiの加水分解とその反応と共役するプロトン能動輸送の2つの異なる役割を担っている。硝酸とアンモニアは、アミノ酸としてN原子が取り込まれるまでの代謝経路が異なり、硝酸をN源とする場合は、アミノ酸への取込み過程でより多くのエネルギーが必要となる。つまり、成長にはアンモニア栄養が好都合である。成長の促進が過剰PPiの消費を促進し、負担を軽減している可能性がある。この点に加えて、硝酸がPiあるいはPPiの膜輸送あるいはPPi代謝に影響している可能性もある。これらの点を生化学的な知見をもとに実験的に解析する。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 謝辞記載あり 6件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件)
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