研究領域 | 植物発生ロジックの多元的開拓 |
研究課題/領域番号 |
26113508
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
塚越 啓央 名古屋大学, PhD登龍門推進室, 特任講師 (30594056)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ROSシグナル / 転写因子 / 遺伝子発現ネットワーク / 根の成長制御 |
研究実績の概要 |
植物成長には細胞の分裂から伸長への空間的に制御された細胞機能転換が重要である。この制御には活性酸素種(ROS)が重要なシグナルとして働くが、その詳細なメカニズムは不明である。そこで本研究では転写因子に着目し、根の成長を制御する新規ROSシグナルの解明を目的とした。 ROSに素早く顕著に発現が誘導される転写因子RFRT1の機能解析を遺伝学的・分子生物学的に行った。その結果RFRT1の標的候補遺伝子の絞り込みに成功した。標的遺伝子群は極超長鎖脂肪酸(VLCFA)の輸送に関わる遺伝子が多く含まれていた。VLCFAが細胞伸長に関わるという知見は乏しく、根の細胞伸長に関わる新たなメカニズムの一端を捉えることができた。 RFRT1がこれら標的遺伝子のプロモーターに結合することをin vitro・in vivo両方で発見し、RFRT1がVLCFAの輸送に関わる遺伝子の発現を直接制御することを示すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
転写因子の機能解析においてはそのダイレクトターゲットを同定し、それらの機能解析が重要と考えられる。本年度の研究結果から、ROS応答性新規転写因子RFRT1のダイレクトターゲットをゲノムワイドに見つけることができた。これによりRFRT1が新しいメカニズムにより根の伸長制御をつかさどる可能性を見出すことができた。さらに、この新しい可能性を検証するために、RFRT1の標的遺伝子群の機能解析にも着手できたので今年度の研究の進捗は期待以上とも言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度中に明らかにしたRFRT1のダイレクトターゲットの解析から、RFRT1は活性酸素種(ROS)のシグナルを受容し細胞伸長に関わることが明らかとなった。RFRT1のダイレクトターゲットには脂質輸送に関わるLTP5と細胞膜上にアンカーされ脂質の輸送に関わるLTPG1とLTPG2が存在した。これらの変異株の解析では、本葉や花茎表層のワックス量が減少することが報告されている。ワックスは超長鎖脂肪酸由来の物質で、RFRT1の過剰発現株ではLTP5、LTPG1、LTPG2の脂質輸送系のみならず超長鎖脂肪酸合成関連遺伝子の発現も誘導されていた。以上の結果からRFRT1は根の細胞表層のワックス成分を調節することにより細胞伸長を制御していることが強く示唆された。しかしながら、シロイヌナズナの根におけるワックス成分は成熟領域のカスパリー線の周囲にのみ蓄積すると報告されており、伸長領域での存在は示されていない。そこで、平成27年度はROS処理後のシロイヌナズナの根の伸長領域におけるワックス成分の蓄積を明らかにする。根でのワックスはスベリンとして知られ、FY088という指示薬で染色可能なことが報告されており、まずはrfrt1やltpg1、ltg2、およびltog1/ltpg2二重変異株を用いた染色実験を行う。スベリンは細胞膜と一次細胞壁の間でラメラ用構造を示すことも知られており、電子顕微鏡を用いた観察も視野に入れる。以上の結果が得られれば、長年Root Waxとして存在が示唆されていたスベリンの発生に関する新たな重要性を提示できると考えている。
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