理論的研究においては、前年度に構築した一次元数理モデルをもとに二次元数理モデルを構築し、コンピューターシミュレーションを行った。その結果、二次元細胞シート上にスポット状のオーキシン蓄積を生じるオーキシン極性輸送や、ライン状のオーキシン蓄積を形成するオーキシン極性輸送がコンピューター上に現れた。これらのオーキシン極性輸送は茎頂分裂組織の表層や葉脈パターン形成において観察されるものに似ており、我々が提案する細胞内オーキシン駆動型の極性輸送モデルの蓋然性を示すことができた。 上記数理モデルの仮定の一つである細胞内オーキシンの不等分布を実証するために、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を利用した新たなオーキシンバイオセンサーの構築を行った。オーキシン受容体TIR1とリガンドAux/IAAのオーキシン依存的な相互作用を利用した1分子FRETバイオセンサーを作製した。オーキシン受容体としてTIR1の全長、リガンドとしてIAA7のドメインIIを1分子FRETセンサー用ベクターに導入した。まずは、大腸菌で発現させ精製したオーキシンFRETセンサーに対してin vitro FRET解析を行った。TIR1とIAA7のドメインIIをバイオセンサーに組み込んだ場合、低濃度のオーキシンの投与によりFRET効率がわずかに上昇した。次に、作製したFRETバイオセンサーを培養細胞において一過的に発現させ、蛍光寿命の減退速度を計測する蛍光寿命測定解析を行った。その結果、FRETセンサーを発現させたプロトプラストにおいて、オーキシン投与により10 %程度の蛍光寿命の減少が確認された。以上の解析結果から、無細胞系およびプロトプラストにおいてオーキシンに応答してFRETが起きるバイオセンサーを開発することができたと考えられる。
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