日本の固有種であり、南西諸島に生息するアマミトゲネズミ (Tokudaia osimensis) は、哺乳類としては極めて珍しくY染色体を失っており、かつ哺乳類の性決定遺伝子であるSRY遺伝子も消失している。よって本研究課題では、本種が獲得した新しい性決定遺伝子を見つけ出すことを目的とし、オス全ゲノム配列のde novo アセンブリ解析と、雌雄間での全ゲノム配列の網羅的比較を行った。また、新しい性決定遺伝子はSRYと類似した機能をもつ可能性があるため、SRYが属するSOXファミリー遺伝子がもつDNA結合ドメイン (HMG-box) 配列のスクリーニングを行った。 オス1個体のゲノム配列をHiseq2500により解読し、de novoアセンブリ解析を行った。約140倍の配列データが得られ、N50は15.1 Mbpであった。また、本種のゲノムサイズは約2.45 Gbpであることがわかった。さらに129 Mbpの配列が低カバーであったため、これら配列をマウスにマップした。その結果、129 Mbpのうち99.19%の配列がX染色体にマップされたが、残りの配列は常染色体7カ所に分散して位置することがわかった。よってこれらの領域はオスでヘテロとなっており、さらにこれら領域の何れかに性決定遺伝子が存在することが示唆された。 また、オス3個体、メス3個体のゲノム配列を用いて、HMG-box 配列のスクリーニングを行った結果、解析対象となる配列は得られなかった。しかし、イントロン領域にオスヘテロな塩基配列が蓄積している遺伝子がみつかり、これらの遺伝子はde novoアセンブリ解析により確認された常染色体上の低カバー領域近傍に存在することが示唆された。今後はこれら遺伝子をマーカー配列として利用し、低カバー領域を含むBACクローンを単離し、詳細に配列を決定することにより候補遺伝子の同定を目指す。
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