ジャガイモの害虫であるニジュウヤホシテントウのエサに二重鎖RNA(dsRNA)を混ぜておくと、エサから取り込まれたRNAがニジュウヤホシテントウの遺伝子発現を制御しうることが申請者らにより実験的に明らかにされた。昆虫が摂食により取り込んだdsRNAによる昆虫の遺伝子発現制御の生物学的意味を考えてみると、ニジュウヤホシテントウはジャガイモがもつ内在性dsRNAをエサとして日々食べているわけで、植物がもつ内在性dsRNA(ほとんどが機能未知)が、実は、昆虫などの遺伝子発現を調節しているのではないかと考えられる。そこで、本研究の目的はこのような生物界をまたいだdsRNAによる遺伝子発現調節を生物と生物の相互作用をとりもつ「ゲノム・遺伝子相関」現象の一つとしてとらえ、その分子機構ならびにこのことの生物学的意義を明らかにする。これまでに、ジャガイモ葉を摂食してからの時間経過ごとに、ニジュウヤホシテントウから全RNAを回収し、mRNA-seq解析をおこなった。また、ジャガイモ葉に発現する二重鎖RNA濃縮ライブラリーを作成し、次世代シーケンサーによるRNA-seq解析を行なった。今年度は、これらのデータ解析を行なった。具体的には、ジャガイモ葉摂食後のニジュウヤホシテントウのmRNA解析結果から、人為的に混入させたdsRNA(昆虫の遺伝子配列と相同)による昆虫の遺伝子発現低下が、次世代シーケンサー解析により検出できることを確認した。また、次世代シーケンサーによるリードの回収は、dsRNAと相同な領域にとどまらず、広い範囲に及ぶことから、dsRNAシグナルが増幅されて標的に作用している可能性が示唆された。さらに、植物ゲノム上の二重鎖RNA産出遺伝子座を明らかにするために、イネゲノムをモデルに両方向の転写物がアノテーションされる領域を抽出する方法論を確立した。
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