公募研究
植物の限られたゲノムによってどのように多様な病原体を認識し、免疫を誘導するかは十分に理解されていない。1940年代、Flor博士は、植物の病害抵抗性は、単一の優性遺伝子によって制御され、植物の抵抗性遺伝子とそれに対応する病原体の非病原性遺伝子の組み合わせによって決定される「遺伝子対遺伝子説」を提唱した。今年度までの新学術研究で申請者は、古典的な遺伝子対遺伝子説では説明できない、異なる2つの抵抗性遺伝子がペアで働く「ペア抵抗性遺伝子」に着目して解析を行ってきた(シングルペア)。その過程で、ペア抵抗性遺伝子Pit-1/2のPit-1は、Pit-2以外の複数の抵抗性タンパク質様タンパク質と結合することを見出した。この結果は、1つの抵抗性遺伝子は、異なる抵抗性遺伝子と複数のペアを形成していることを示唆している(ペア遺伝子群)。これまでに、1つの抵抗性遺伝子が複数の抵抗性遺伝子とペア形成をする報告はなく、この知見は、植物免疫の多様性を理解する上で新しい概念となりうる。本研究では、ペア抵抗性遺伝子群による植物免疫機構をタンパク質レベルで解明することを通じて、病原体と植物の遺伝子相関を理解する。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、抵抗性タンパク質Pit-1とその相互作用分子Pit-2の解析を通し、「ペア抵抗性タンパク質Pit-1, Pit-2による免疫制御機構を理解すること」を目的とする。本研究で、Yeast-two-Hybrid解析から、Pit-1がホモダイマーを形成すること、Pit-1とPit-2がヘテロダイマーを形成することを確認した。また、イネプロトプラストでの蛍光タンパク質で標識したPit-2の一過的発現、Agroinfirtration法を用いたN.benthamianaでの一過的発現Immunoblottingにより、Pit-2はPit-1と比較して細胞内での安定性が低い可能性が示唆された。更に、Pit-1はPit-2と共発現させることで検出されるタンパク質が増加し、Pit-2がPit-1の安定性に寄与することが示唆された。また、Pit-1によって誘導される細胞死における各種Pit-2変異体の効果を検討したところ、スイッチドメインと考えられているNB-ARCドメインのMHDモチーフに変異を加えたPit-2変異体が、特異的に活性型Pit-1による細胞死誘導を抑制することを見出した。以上の結果から、Pit-1とPit-2は細胞内でヘテロダイマーを形成し、互いにタンパク質の安定性や活性を調節してペア抵抗性タンパク質として働く可能性があると推測された。以上のように、おおむね順調に進展している。
[1] ペア抵抗性遺伝子による免疫の誘導機構ペア抵抗性遺伝子産物Pit-1/2のリガンドである病原体の非病原性遺伝子産物Avr-Pitを同定し、Avr-PitがPit-1とPit-2のどちらに結合するかを明らかにする。ペア抵抗性遺伝子産物であるPit-1とPit-2の機能の違いが、どのようなタンパク質活性の差異によるものか生化学的に検証し、ペア抵抗性遺伝子による免疫の誘導機構を明らかにする。[2] ペア抵抗性遺伝子の進化の過程の解明栽培イネの祖先種とされるOryza rufipogonやきわめて少ない系統で遺伝的変異を幅広くカバーする栽培イネのコアコレクションを用いて、Pit-1/2の多型の解析を行う。得られた情報から、単一の遺伝子からどのような過程でPit-1とPit-2という機能の異なる2つの遺伝子に進化したのか、また、Pit-1とPit-2に進化の過程でどのような選択圧がかかったのかを解明する。[3] ペア抵抗性遺伝子群の同定と意義の解明Pit-1とPit-2をそれぞれ免疫沈降し、相互作用するタンパク質を同定する。相互作用するタンパク質の構造の類似性や遺伝子の座乗する位置から、ペア遺伝子群の同定とその意義を解明する。培養細胞において、相互作用する2つの抵抗性遺伝子を過剰発現して、免疫における効果を検討する。ペア抵抗性遺伝子群が植物免疫にどのような影響を及ぼすかを構成遺伝子のRNAiや過剰発現植物体を用いて、その役割を明らかにする。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 謝辞記載あり 3件) 備考 (1件)
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