公募研究
X染色体不活性化に必須なXist RNAの変異型RNAは正常な不活性化を引き起こすことができないが,免疫染色で調べた限りX染色は偽ヘテロクロマチンとも呼べるヘテロクロマチン様のクロマチン形態を示す.本研究では,ヒストン修飾の分布,染色体サイレンシング,複製プログラミングと偽ヘテロクロマチン形成の相関をエピジェネティクスの見地から考察することを目的としているが,今年度は解析に用いるES細胞の分化系の確立とRNA-seqおよびChIP-seqに着手した.樹立したES細胞を分化誘導すると,変異胚で観察された偽ヘテロクロマチンの形成が再現されることが確認できた.しかし,ある程度予想されたことではあるが,2本のX染色体のうち一方が培養過程で失われXOとなる,メスのES細胞がしばしば直面する問題に行き当たり,その打開に時間を要している.一細胞クローニングを行い,未分化状態では比較的安定に2本のX染色体を維持しているサブクローンを複数得た.これらを分化誘導したところ,改善はされたものの,依然ある程度の割合でXOの細胞が現れるという状況である.現在,その割合が,より低いサブクローンの選別を行っている.また,ES細胞に代わる別のアプローチとして,不活性化を開始して間もない胚よりエピブラスト幹細胞(EpiSCs)の樹立し,解析に用いることを検討している.RNA-seqについては,微量のサンプルでも可能なので,胚を用いて解析を行っている.野生型と変異胚それぞれ1個体について,X染色体連鎖遺伝子だけでなく常染色体連鎖遺伝子についても,発現量やパターンの差異について調べた.解析サンプル数を増やし,これまでに見出された差異が有意なものか検討を進める.
3: やや遅れている
当初用いたメスのES細胞が分化誘導後の集団を見ると30-40%しか2本のX染色体を維持していない状況であったので,ChIP-seqによる解析には不適当であると判断した.クローニングの結果,未分化状態では高い頻度でX染色体を2本維持しているサブクローンを得たがた,分化誘導後の挙動についてはもう少し解析が必要である.ある程度予想された問題ではあるが,まだ解決には至っていない.ChIP-seqには,この問題の打開が不可欠な状況である.
これまでに得られたメスES細胞のサブクローンの有用性を評価するとともにEpiSCsの利用について検討するため,変異胚を用いてその樹立を試みる.有用と判断できるES細胞,あるいはEpiSCsが得られたら,様々なヒストン修飾に対する抗体を用いChIP-seqを行う.RNA-seqについては,胚のサンプル数を増やし,これまでに得られている結果と比較し,発現量の変化について詳細な解析を行う.変異胚におけるX染色体不活性化の異常の程度を明らかにするため,野生型との比較に加え,Xistの機能が完全に失われた胚との比較も行う.
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (14件) (うち招待講演 2件)
Genes & Genetic Systems
巻: 89 ページ: 151-157
http://dx.doi.org/10.1266/ggs.89.151
Cell
巻: 159 ページ: 1681-1697
doi:10.1016/j.cell.2014.11.040