研究実績の概要 |
植物の受精卵における母親ゲノムと父親ゲノムの比は1:1、一次胚乳細胞におけるそれは2:1である。この両親ゲノム比は種子形成と密接に関連しているが、受精卵胚発生過程においては、「受精卵中の同種あるいは異種の雌雄ゲノム比と胚発生の関係性」についての明確な知見は得られていない。本研究では、in vitro受精系を用いて、同種雌雄ゲノム比および異種ゲノムを任意の組み合わせで受精卵中に存在させ、それらゲノムが胚発生に与える影響を実験発生学的に示すとともに、胚発生過程における雌雄ゲノムの機能と異種ゲノム間の相関関係を明らかにすることを目的とした。 (1) 異なる比で同種雌雄ゲノムをもつ受精卵の発生能 複数のイネ卵細胞と一個のイネ精細胞を融合(多卵受精)させた受精卵(3, 4, 6倍体)の発生率が2倍体とほぼ同様である一方で、一個のイネ卵細胞に二個のイネ精細胞を融合(多精受精)させた受精卵(3倍体)では、多くの場合、核融合あるいは核融合後の第一分裂の過程で発生が停止することを明らかした。さらに、受精卵内で片親ゲノム特異的な発現を示す遺伝子群の同定を試みた。この際、SNP情報を利用するためにジャポニカ品種のニホンバレとインディカ品種のカサラスを用いて受精卵を作出し、NGS解析を行った。その結果、受精卵中で父親アリル特異的発現を示す遺伝子が10個程度同定された。現在、それら遺伝子群がどのように受精卵発生に関与しているか解析を進めている。 (2) 異種ゲノムもつ交雑受精卵の発生能 イネ、トウモロコシ、およびコムギ配偶子を任意の組み合わせで融合させたところ、異質2倍体受精卵が10 - 100細胞胚程度で発生を停止したのに対して、異質倍数性受精卵は再分化期カルスにまで発生・増殖を進めた。この結果は、異種の雌雄ゲノム存在量比が受精卵の発生に影響を及ぼすことを示唆している。今後は、交雑受精卵中おける異種雌雄ゲノム間の相関機構について解析を進める。
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