研究領域 | 多様性から明らかにする記憶ダイナミズムの共通原理 |
研究課題/領域番号 |
26115503
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
林 悠 筑波大学, 国際統合睡眠医科学研究機構, 助教 (40525812)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 神経科学 / 脳・神経 / 脳神経疾患 / 睡眠 |
研究実績の概要 |
近年、睡眠が記憶ダイナミズムに大きな影響を与えることが明らかとなった。例えば、覚醒の記憶の賦活がその記憶を脆弱化させるのとは対照的に、睡眠中の賦活は固定化を促進する。しかしながら、覚醒時と睡眠時で、具体的に記憶情報の処理過程がどう異なるかは不明である。そこで本研究では、学習や感覚経験を経たマウスの脳内をin vivoで観察し、睡眠中に神経細胞やグリア細胞がどう振る舞うのかを明らかにすることを目指す。これまでに、無麻酔下のマウス脳において特定のグリア細胞の振る舞いを観察することに成功した。 また、哺乳類の睡眠はレム睡眠とノンレム睡眠から成る複雑な生理状態であるが、個々の睡眠の意義はよく分かっていない。私たちはレム睡眠やノンレム睡眠の制御を担う細胞群を同定し、その活動を操作することにも成功した。本技術により、哺乳類の睡眠が複雑に進化した意義を解明できると期待される。これまでに、レム睡眠がノンレム睡眠中の徐波の生成に関与することを見出した。徐波はシナプス可塑性や記憶固定化に重要とされることから、レム睡眠がノンレム睡眠の制御を介して記憶学習の制御に関わると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本プロジェクト初年度において、既にレム睡眠と神経可塑性の関係を示唆する知見が得られた点において、予想以上の進展が得られた。なお、イメージング系の確立に関しては当初の予定通り順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
学習や感覚経験が惹起する神経リモデリングのダイナミクスに覚醒/睡眠という脳のマクロな状態が及ぼす影響を解明する。特に、グリア細胞のダイナミクスとその神経リモデリングへの影響に注目する。 具体的には、グリア細胞の中でも特にダイナミックな形態変化を起こすオリゴデンドロサイト前駆細胞およびミクログリアに注目し、それぞれに細胞種選択的にGFPを発現するトランスジェニックマウスを用いる。これらのマウスにおいて、無麻酔下で脳波測定を行いがら同時に頭蓋窓を通してグリア細胞の形態を解析して、形態変化・活性化・増殖・分化・神経細胞との相互作用などのイベントと睡眠覚醒状態の相関関係を解析する。まずはホームケージで通常条件下で飼育したマウスを用いて解析を行い、次は学習モデルであるsingle-seed reaching taskや、感覚喪失のモデルであるヒゲのトリミングなどの処置により、脳の刺激を通じて人為的にグリア細胞の活動を上昇させたマウスにおいて同様の解析を試みる。これらの結果、睡眠覚醒の影響を受けると期待されるイベントに関しては、さらに、因果関係も明らかにするために、当研究室で確立した覚醒促進ニューロン特異的DREADD-hM3Dq発現マウスを用いて、非侵襲的に睡眠を阻害した条件下で同様の解析を進める。さらに、レム睡眠とノンレム睡眠それぞれの貢献を明らかにするために、当研究室で確立したレム睡眠抑制ニューロン特異的DREADD-hM3Dq発現マウスを用いて、非侵襲的にレム睡眠のみを阻害した条件下で同様の解析を進める。また、より急性に睡眠覚醒状態を人為的に操作した効果を調べるために、これらのニューロンの活動を光遺伝学的手法で操作する技術も確立する。
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