研究実績の概要 |
これまで謎であったレム睡眠の生理的意義に関して、神経可塑性に関わる可能性について検討した。そのため、マウスの脳幹において同定した、レム睡眠を強く抑制するニューロン群に神経興奮を誘発できる遺伝子を導入したところ、任意のタイミングでレム睡眠を遮断することに成功した。そこで、このマウスにおいて、一時的なレム睡眠遮断の効果を、睡眠中の脳波に注目して検討した。レム睡眠を遮断し続けたマウスでは、予想外のことに、ノンレム睡眠中の脳活動に次第に異変が現れた。すなわち、ノンレム睡眠中に生じて神経可塑性への関与が知られる徐波と呼ばれるゆっくりとした同調的な脳活動が次第に低下した。レム睡眠遮断が終了し、レム睡眠が復活すると、その直後にノンレム睡眠中の徐波も回復した。一方、覚醒時もレム睡眠と似た脳活動を示すが、覚醒にはレム睡眠ほど強い徐波促進作用は認められなかった。以上、レム睡眠の一つの役割は、ノンレム睡眠中に現れる徐波を強化することだと示唆された。徐波は、シナプス可塑性や記憶学習への関与が知られている。本結果から、レム睡眠には徐波をノンレム睡眠中に促進し、記憶学習に貢献する可能性が示唆された。以上の結果について、科学誌へ投稿した(Hayashi et al., Science, 2015)。
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