学習や記憶機能は、加齢にともなって低下する。本研究提案では、加齢にともなう生体内の代謝機能の低下が記憶機能に与える影響を明らかにすることで、加齢性記憶低下の原因を理解することを目的とする。これまでにショウジョウバエ嗅覚記憶をモデルとして研究を行い、老化個体では安定な記憶が形成されないこと、記憶固定のプロセスを担う機能が低下していることを明らかにしてきた。また、体内の恒常性と記憶機能の関与について、これまでに以下を明らかにしてきた。1)遺伝学的にインスリン産生を一過的に抑制したハエ個体において嗅覚記憶を測定したところ、学習機能は正常だが記憶を維持する能力が低下した。2)インスリン産生を老齢個体で同様に抑制させても、記憶低下は亢進しなかった。3)ショウジョウバエにおいてインスリンシグナルを制御する因子が記憶の維持に必要である。4)インスリンシグナル関連因子の発現量は、加齢により低下する。 これらの遺伝学的解析から、インスリンシグナルの一部が加齢により影響を受けることが、記憶低下、とくに記憶を維持する能力低下の原因の一つであることが示唆された。
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