研究領域 | 多様性から明らかにする記憶ダイナミズムの共通原理 |
研究課題/領域番号 |
26115506
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山口 正洋 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (60313102)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 嗅球 / 嗅皮質 / 睡眠 / 神経新生 |
研究実績の概要 |
変化する匂い環境に対して適切な行動をとるために嗅覚系の学習記憶は極めて重要である。近年、嗅覚学習記憶に嗅覚一次中枢の嗅球神経回路の可塑性が大きく寄与していることが分かってきたが、その神経機構は不明である。嗅球神経回路の可塑性には、介在ニューロンであるgranule cell(GC)から投射ニューロンへの抑制性シナプスが中心的な役割を担っている。嗅球GCは常に新生しており、我々は新生GCの選別が覚醒時の嗅覚経験とその後の睡眠サイクルに基づいて行われ、睡眠中の嗅皮質から嗅球へのtop-downシナプス入力が新生GC選別を促進することを見出している。以上より、本研究は嗅覚学習記憶が覚醒睡眠サイクルに基づいてどのように形成・獲得されるかを、動物の行動、嗅球神経回路の機能、嗅球新生GCの役割の解析を通じて理解することを目的とする。遺伝子改変マウスや光・化学遺伝学を活用し、電気生理学的な嗅球神経回路の機能評価を行う。 まず、匂い提示オルファクトメーターと行動学習オペラントチャンバーを用いて、数日間の覚醒・睡眠サイクルを経てマウスに嗅覚連合学習(2種類の匂いを用いて、一方の匂いだと水がもらえ、もう一方の匂いだと水はもらえない)を行わせる実験系を確立した。この学習過程における嗅球・嗅皮質の局所電場電位(LFP)記録より、1)学習過程とともに、タスク時における嗅球・嗅皮質の低周波数帯域波(ベータ波)の強度、ベータ波の嗅球・嗅皮質間の同調性(コヒーレンス)が増強する 2)嗅球新生ニューロン除去マウスではこの嗅覚行動学習が遅れ、タスク時における嗅球・嗅皮質ベータ波が減弱する 以上のことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画どおり、嗅覚行動学習の実験系を確立し、この学習過程における覚醒時タスク中の嗅球・嗅皮質の電気活動の変化をとらえることができた。また新生ニューロン除去マウスを用いて、嗅覚行動学習の異常と覚醒時タスク中の嗅球・嗅皮質の電気活動の異常を観察できた。今後、睡眠時の神経活動とその機能的意義の解析に進む基盤をつくることができた。以上のことから、本研究は計画に沿って順調に進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、オルファクトメーターとオペラントチャンバーを用いた嗅覚行動学習過程における睡眠中の神経活動の役割を検討する。 1.嗅覚学習過程の睡眠時の神経活動の解析 学習した内容を記憶するためには、タスク後の睡眠が重要と想定されている。タスク前、タスク後の睡眠中の嗅球・嗅皮質のLFP、また嗅皮質ニューロンの発火活動を記録し、タスク前後でどのような違いがあるかを検討する。また、日をまたいだ学習過程において、タスク後の睡眠中の電気活動がどのように変化するかを検討する。ベータ波の強度、嗅球・嗅皮質間のコヒーレンスに加え、ニューロンの同期発火を反映するsharp waveを指標に、嗅皮質から嗅球へのtop-downシナプス入力に着目して解析する。 また、同様の実験を嗅球新生ニューロン除去マウスを用いて行う。睡眠中の神経活動を解析し、新生ニューロンが睡眠中の神経活動と嗅覚行動学習に果たす役割について、相互の関連性を考慮しながら検討する。 2.嗅覚学習における睡眠中の嗅皮質神経活動の役割の解析 嗅皮質にカニューレを留置し、学習セッション後の睡眠時にGABA受容体アゴニストを投与し、嗅皮質の機能抑制を行う。また、嗅皮質の興奮性ニューロンにCre recombinaseを発現するマウスを用いた化学遺伝学的手法により、学習セッション後の睡眠時に嗅皮質の機能抑制を行う。機能抑制の翌日の学習タスク時の行動、嗅球・嗅皮質LFPを解析し、睡眠時の嗅皮質神経活動が嗅覚学習に果たす役割を検討する。
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