研究領域 | 多様性から明らかにする記憶ダイナミズムの共通原理 |
研究課題/領域番号 |
26115512
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
日比 正彦 名古屋大学, 生物機能開発利用研究センター, 教授 (40273627)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 小脳 / 恐怖応答 / 記憶 / 神経回路 / 条件付け / 学習 / ゼブラフィッシュ / 遺伝学 |
研究実績の概要 |
脊椎動物の小脳は、円滑な運動制御のみならず、認識・感情などの高度な精神活動とそれに関連する学習にも関与する。これら精神活動において学習された情報は小脳神経回路に貯蔵されると考えられるが、実際の学習過程で情報がどのように処理・記憶されるかは明らかでない。真骨魚類においては、嫌悪刺激(電気ショック等の無条件刺激)と条件刺激(光刺激等)を連合学習させることにより、条件刺激だけで恐怖情動を誘発し、徐脈・逃避行動を誘導することができる(恐怖応答学習)。本研究では、ゼブラフィッシュを用いて恐怖応答学習における小脳神経回路の役割を解析した。 (1)小脳神経回路の神経活動をモニターまたは神経活動を操作できるトランスジェニックフィッシュ(Tg)系統の作製:小脳神経回路を構成する、顆粒細胞、プルキンエ細胞、投射神経、下オリーブ核ニューロン(入力ニューロン)に転写因子Gal4を発現するTg系統を作製した。さらに、Gal4依存性にCa2+ indicator GCaMP6sや神経活動調節能を有するタンパク質(ボツリヌス毒素、光遺伝学素子)を発現するTg系統を作製または入手した。 (2)ゼブラフィッシュを用いた恐怖応答学習系の確立:受精後2週間以降のゼブラフィッシュ稚魚を、顕微鏡のステージ上で、電気ショックを無条件刺激、消灯(照射光を消す)を条件刺激として条件付けを行い、条件刺激依存性に徐脈と逃避行動を誘導する系を確立した。 (3)恐怖応答学習における顆粒細胞の役割の解析:顆粒細胞をボツリヌス毒素で抑制した際の、恐怖応答学習を検討したところ、条件刺激依存性の徐脈誘導反応は延長した。このことから、顆粒細胞を介したシグナルは恐怖応答のタイミングを制御している可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)小脳神経回路の神経活動をモニターまたは神経活動を操作できるトランスジェニック(Tg)系統の確立に関しては、より詳細な解析のために新規のTg系統の開発は行っているものの、解析に必要な系統の大半を揃えることができた。(2)ゼブラフィッシュを用いた恐怖応答学習系の確立に関しては、顕微鏡ステージ上での恐怖応答学習の系を立ち上げた。(3)恐怖応答学習における個々の小脳回路の役割の解明に関して、顆粒細胞の役割を解析することができた。
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今後の研究の推進方策 |
(1)小脳神経回路の神経活動をモニターまたは神経活動を操作できるトランスジェニック(Tg)系統の確立に関しては、より詳細な解析のため、顆粒細胞およびプルキンエ細胞特異的遺伝子の制御領域にGal4発現ユニットをノックインして、より良いTg系統を作製する予定である。(2)ゼブラフィッシュを用いた恐怖応答学習系の確立に関しては、神経活動のイメージングを行う条件下で、恐怖応答学習できる系を確立する。小脳神経回路特異的にGCaMP6sを発現した系統を用いて恐怖応答学習を行い、学習過程および記憶の維持の際に活性化されるニューロン・神経突起を明らかにする。(3)恐怖応答学習における個々の小脳回路の役割の解明に関して、顆粒細胞の解析を続ける。さらに、プルキンエ細胞や下オリーブ核ニューロンなど他の神経回路阻止を阻害または活性化した際の、恐怖応答学習に与える影響を検討し、小脳神経回路の役割を明らかにする。
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