公募研究
脳における神経細胞の集団的活動の基盤には、神経細胞間でランダムにみえながら特異的結合をもつ複雑ネットワークの存在が示唆されている。この集団的活動が記憶ダイナミクスを生みだす複雑ネットワークの機能単位であると考えられる。本研究では、個々の神経細胞でランダムな組み合わせ発現する多様化標的認識分子群であるクラスター型プロトカドヘリン(cPcdh)分子群に注目し、cPcdh分子種による特異的シナプス形成メカニズムを明らかにしたいと考えている。これまでの研究で2種のPcdh-α、4種のPcdh-β、4種のPcdh-γが個々の神経細胞においてランダムな組み合わせにより発現しており、神経細胞の多様性が約3 x10の10乗となるのではないかと推定される。また、Pcdhアイソフォームはヘテロ4量体を形成しており、神経細胞あたり15種からつくられるヘテロ4量体数は12,720種となり、シナプス数が個々の神経細胞あたり1万個であることを考えると興味深い。このcPcdhの局所回路形成での役割を明らかにする為に、iPS細胞をマウス正常胚に注入したキメラマウスの皮質体性感覚野4層の星状細胞における局所回路の解析を2細胞同時ホールセル記録法により解析した。その結果、正常なiPS細胞を用いた解析により、同一神経幹細胞由来の興奮性ニューロン間で高頻度に双方向性結合が認められることを発見した。また、cPcdh全欠損iPS細胞を用いたキメラマウスではこの高頻度の双方向性結合がランダムレベルに低下していた。更に、cPcdhのランダム発現を制御するDNAメチル化酵素Dnmt3bを欠損させたiPS細胞を用いた場合、この高頻度双方向性結合が低下していた。特異的なcPcdh結合性による複雑ニューラルネットワーク形成のメカニズムが示唆されてきた。
1: 当初の計画以上に進展している
クラスター型プロトカドヘリン(cPcdh)遺伝子を全て欠損したマウスの作製に成功し、このマウス海馬体由来の神経細胞を用いることにより、Pcdhアイソフォーム依存的な細胞間相互作用の解析が可能となった。これにより集団的活動をもたらす局所回路形成とPcdh発現との関わり合いが明らかになることが予想される。また、これまで不可能と考えられていたPcdhアイソフォーム特異的発現パターンを生きたマウスにおいて可視化することに成功した。
今後は、cPcdh遺伝子全欠損マウスを用いてPcdhアイソフォーム依存的な細胞間相互作用とシナプス形成との関連性を明らかにし、集団的活動をもたらす局所回路形成とPcdh発現との関わり合いを明らかにする。また、Pcdhアイソフォーム特異的発現パターンを可視化できるマウスを用いて、Pcdhのランダムな発現と集団的活動との関連性を明らかにする。
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