公募研究
運動学習の過程で、脳内の神経活動に生じる変化の全体像はあまり理解されていない。これまでの多くの研究では、運動に繰り返し同じ課題を行わせたときの、神経活動の試行平均を解析しており、神経活動の試行間ばらつき(流動性)の機能的意義についてはいまだ解明されていない。本研究では、試行ごとの運動と神経活動を対応させ、学習過程で起きる記憶ダイナミズムを、試行間ばらつきに着目して明らかにすることを目指す。まず、行動実験系の確立を行った。頭部を固定したラット個体動物に、特定の視覚刺激(例えば、縦縞)を提示したときには、レバーを押し、特定の視覚刺激(例えば、横縞)を提示したときには、レバーを引くということを関連づける、視覚弁別誘発性の運動課題を学習させた。二種類の視覚弁別刺激に対して、二種類の運動出力を行わせた。押すと引くの二種類の運動を覚えさせた後に、コントラスト100%で、ラットに見えやすい視覚刺激を用いて弁別を行わせると、実験を行った全てのラットで、学習し、90%以上の正答率で課題遂行した。高い正答率のため、ラットの運動出力、押すか引くかを観察することで、ラットがどのように知覚・認知したのかを実験者は容易に知ることができる。このように学習が完了した後に、弁別視覚刺激を、コントラストや空間周波数を変えることによって、ラットに見えにくい刺激にした。弁別の難易度を上げることで、不正解の試行も生じるようにした。60-90%程度の様々な正答率にふることに成功した。これによって、試行間ばらつきが増大していることが期待される。また、上記の視覚弁別誘発性の運動課題を遂行するラットの一次視覚野、高次運動野から多細胞の神経活動を一斉にマルチユニット記録した。現在、解析を行っているところである。
2: おおむね順調に進展している
視覚弁別誘発性の運動課題の行動実験系の確立を行うことに成功した。弁別視覚刺激と二種類の前肢運動を対応づけるという、比較的高難度の課題であるが、現在までのところ、実験を行った全てのラットに対して、学習させることができており、高い安定性を有している。さらに、弁別の視覚刺激の難易度を変えることで、正答率をふることにも成功した。
視覚弁別誘発性の運動課題を遂行するラットの一次視覚野、高次運動野から多細胞の神経活動を一斉にマルチユニット記録し、現在、解析を行っているが、今後、さらに解析を行っていく予定である。また、現在までのところ、学習が完了した後に、課題遂行するラットからの神経活動しか記録していないが、今後、学習の初期、後期での、各過程での実験データを集める予定である。さらに、視覚野の特定の神経細胞群にチャネルロドプシン2を発現させ、人為的に発火させることで、発火の試行間ばらつきを小さくする。この流動性の低下が課題の遂行にどのような影響をもたらすのかを検討する。試行間ばらつきと知覚・運動機能の関連性を明らかにする。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件)
薬学研究の進歩 研究成果報告集
巻: 31 ページ: 11-18
The Journal of Neuroscience
巻: 34 ページ: 10122-10133
10.1523/JNEUROSCI.0863-14.2014
PLoS One
巻: 9 ページ: e98662
10.1371/journal.pone.0098662.