公募研究
刻印付け(刷り込み)は、孵化直後の鳥類ヒナが親鳥を記憶し追従する早期学習の典型例であり、臨界期を有する記憶のメカニズムを解析するモデルとなっているが、臨界期を決定する因子は不明であった。代表者らは、ニワトリヒナを用いた実験系において刻印付けトレーニングを開始すると甲状腺ホルモン(T3)が脳内へ急速流入し、臨界期を開く決定因子となること、そしてT3が一過的に作用すると、その後行う他の強化学習の習得効率が顕著に向上すること(メモリープライミングと命名)、さらにT3を脳内に局所的に注入することで、一度閉じた臨界期を再び開けることも可能であることを示した。本研究では、記憶を、定量的かつ個体レベルで解析できるという利点を生かし、『学習記憶能力を賦与するホルモンの脳内作用メカニズムを解明すること』を研究目的とする。本年度はメモリープライミングの分子的な実体の解明を目指し、メモリープライミングに関与する分子の検索を行った。その結果、刻印付けのプライミングには、Rho GTPaseシグナルに関わる物質群が重要であり、T3が神経細胞に作用するとその細胞内受容体T3と結合したのち、Nucleotide kinase2のリン酸化の亢進、Rho kinaseのリン酸化抑制を経て、神経棘突起のactin骨格の一過的な再編成が起こることがわかった。actin骨格が学習能力を賦与するT3によって変動することは、学習能力を得るための特異的な反応が神経微細構造内で起こることを示唆する。このような神経微細構造の内部改編が記憶成立の構造的な基盤となっていることが考えられる。
2: おおむね順調に進展している
本年度はメモリープライミングに関与する分子の検索を行い、関与する分子群の同定に成功した。すなわち、刻印付けのプライミングには、Rho GTPaseシグナルに関わる物質群が重要であり、T3が神経細胞に作用するとその細胞内受容体T3と結合したのち、Nucleotide kinase2のリン酸化の亢進、Rho kinaseのリン酸化抑制を経て、神経棘突起のactin骨格の一過的な再編成が起こる。T3が神経細胞に作用するとこのような非遺伝子作用が引き起こされるが、その分子メカニズムが明らかになってきた点がおおむね順調に推移していると考えられる理由である。
27年度も引き続き、プライミング成立に必要なT3の短時間のnongenomicな神経細胞への作用機構を解明する。特に2光子励起レーザ走査型顕微鏡を用いたin vivoイメージングによって、T3およびRho GTPaseの阻害剤を作用させたときの神経細胞の微細構造(棘突起、樹状突起)の変化を解析し、メモリープライミングの効果を維持する形態的な基盤を解明する。T3によって棘突起内のアクチンの重合状態が変化することを示しているので、細胞内骨格の制御に注目した解析を進める。具体的には棘突起内のGアクチンの重合状態をin vivoイメージングして、プライミングによる細胞内骨格のダイナミズムを解析する。また、神経伝達に関与するシナプスタンパク群にも注目してT3の制御下にあるか否かについて、免疫抗体染色により量的変動と局在性を解析する。
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件) 備考 (2件)
J. Cell. Physiol.
巻: 229 ページ: 422-433
10.1002/jcp.24463.
Communicative & Integrative Biology
巻: 7 ページ: 1-4
10.4161/19420889.2014.970502
http://www.pharm.teikyo-u.ac.jp/
https://www.e-campus.gr.jp/staffinfo/public/staff/detail/450/16