研究領域 | 多様性から明らかにする記憶ダイナミズムの共通原理 |
研究課題/領域番号 |
26115526
|
研究機関 | 沖縄科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
杉山 陽子(矢崎陽子) 沖縄科学技術大学院大学, 臨界期のメカニズム研究ユニット, 准教授 (00317512)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 歌学習 / 注意・覚醒 / 聴覚 |
研究実績の概要 |
平成26年度において、キンカチョウの歌学習をモデルとして用い、動物の内的要因によって制御される学習の神経メカニズムの解明を行った。具体的にはキンカチョウが歌学習の際、スピーカーから受動的に聞いた歌から歌学習を行わないが、同じスピーカから聴く歌でもオペラント条件付けなど報酬として聴く、また同じ歌でも親の鳴いている歌を直接聴くなど社会的コミュニケーションとして聴くなどにより学習が成立する、という行動学場で見られる現象の生理学的基盤を明らかにすることを試みた。 これまでの研究室における別の研究から、キンカチョウでは終脳の聴覚関連領域の神経細胞が歌学習に伴い、覚えた歌に特異的な聴覚応答を示すようになることが明らかになってきていた。そこで、この神経細胞の特異的な聴覚応答が親鳥の存在という行動文脈により、どのように変化するのか明らかにすることを試みた。 慢性電極を植え、自由運動下のキンカチョウ、終脳聴覚関連領域の神経細胞の活動を記録し、様々な鳥の歌を覚醒下でスピーカーから流し、その聴覚応答を調べた。親の歌に特異的な反応が見られる細胞が見つかった際には、さらに親鳥を同じケージ内に入れ、その聴覚応答がどのように変化するのか調べた。いくつかのケースでは、直接親鳥が鳴くいたときに対する反応を記録することも出来た。さらに、トリの睡眠下でも様々な鳥の歌をスピーカーから聴かせ、その聴覚応答を調べた。 親の歌に特異的に反応する細胞では、親鳥の存在により、その聴覚応答が増強することが明らかになった。直接聞いた場合においても同じことが見られた。また逆に睡眠下においては、その特異性が低くなり、他の鳥の詩に対しても弱い反応を示すようになった。 このように歌学習に伴い記憶が形成されると考えられる領域において、その記憶となる聴覚応答にトリの内的状態の変化による応答性の変化を見ることが出来た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は予定通り、トリが歌学習時に注意・覚醒と言った内的要因に起因して学習セが成立する、という行動学的事象を裏付ける、生理学的現象を明らかにできた。特に研究室でこれまでに行ってきた別の研究で、記憶が形成されると明らかになってきている領域において、同じ行動文脈に依存してその聴覚応答が変化するというという現象を生理学的に明らかに出来たことは大きな発見であった。この生理学的現象が、どのような神経メカニズムに基づき起こるのか、さらにこれが学習行動の成立を本当に制御しているのか、次年度の研究に繋げ、明らかにしていく。
|
今後の研究の推進方策 |
平成26年度の研究において、個体の内的要因により制御される学習、という行動を支える脳領域、またその内的要因による聴覚応答の変化が明らかになったので、平成年度においては内的要因の変化を聴覚応答の変化に繋げる神経メカニズムの解明、を行う。 具体的にはまず、注意・覚醒レベルを制御すると言われている神経物質、ノルアドレナリンに注目し、終脳聴覚関連領域における、聴覚応答がノルアドレナリンの作用により、どのように変化するのか明らかにする。これは、電気生理学的実験と 薬理学的実験を併用することで行う。さらにアドレナリン作用性神経細胞を制御する神経核である青斑核の神経細胞の活動を薬理遺伝学を用いて制御し、その際の終脳聴覚関連領域の神経細胞の聴覚応答を解析する。また、歌学習において通常学習が行われないスピーカーから歌を聴いいている時に青斑核の活動を上昇させる、逆に学習が成立する状態である、親の歌を直接聴いている状態で青斑核の活動を抑制する、という学習パラダイムを行い、歌学習が成立するのか解析を行う。これにより、動物の内的要因が青斑核のおけるノルアドレナリン神経細胞の活動、とそれに伴うノルアドレナリンの聴覚関連領域における放出、と言う現象に変換され、聴覚反応の変化に繋がり学習の成立が制御する、という仮説を検証していく。
|