研究領域 | 少数性生物学―個と多数の狭間が織りなす生命現象の探求― |
研究課題/領域番号 |
26115703
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
茅 元司 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (00422098)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 分子間協同性 / 蛍光分光顕微鏡 / ミオシン |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,タンパク質が集合体を形成するに際して,1分子の機能が集合体においてどのように拡張され,集合体の機能発現に繋がっているのかを検討するため,骨格筋ミオシン集合体をつかった実験系を構築し,ミオシン分子間における協同的な現象を可視化することである.本研究では,分子集合体の複数の分子を同時に可視化する顕微鏡技術を用いて,分子間の協同性を直接検証する画期的な実験を遂行していく. 本年度では,大きく分けて2つの点にフォーカスした.1) アビジン化した金コロイドや量子ドットが非特異的に結合しないガラス基板処理の検討.2) 蛍光分光顕微鏡を用いた実験方法の最適化. ガラス基板の表面処理に関しては,ガラス面をプラズマ処理し親水性を高め,そこにカゼイン (0.5-1.0 mg/ml)と界面活性剤体 Pluronic F127 (1%) を混合したブロッキング溶液を入れることで,アビジンのガラス基板への非特異的吸着を劇的に軽減することに成功した. 一方,蛍光分光顕微鏡においては,理研QBiCの市村垂生研究員の開発された顕微鏡を使用して,ミオシンフィラメント上の複数分子を蛍光波長の異なる量子ドットで標識し,各分子の挙動を同時に測ることに成功した.またアクチンの蛍光像も同時に観察する必要があり,アクチンフィラメントはローダミンで標識し,一方ミオシンは量子ドット525,565,585で標識することが最適であった.実験では,通常の蛍光像では回折限界内にあるため識別できない蛍光像2点(ミオシン2分子)を分光することで,分離して解析することができ,アクチンとの相互作用時における各々の変位を計測することに成功した.今後は,この実験系で計測を繰り返し,市村博士との共同研究の元,光ピンセットなどを組み込んで,より本研究に適した顕微鏡システムに構築していく予定である.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度では,当初,金コロイドを標識したミオシン頭部のダイナミクスを高時間分解能で観察し,さらに並進方向だけでなく,回転方向も把握するために,ナノロッドを結合させた実験系を構築していく予定であった.しかし,金コロイドのガラス基板に対する非特異的な結合が著しく,計画を変更せざる得ない状況となった.結果的に,非特異的な結合を削減する表面処理方法を決定できたことは大きな前進であるが,当初の計画とは随分変更となった.その一方で,次年度に行う予定であった分光顕微鏡を用いた実験の方が進展し,ほぼ実験条件が決定した.ただし,現在は東京から大阪のQBiCに出向いて実験しているため,実験回数が少なく十分なデータを取れないのが難点である.また,計測中は分光像しか確認できないため,実際にどのような相互作用が起きているのか把握することができず,データの理解が困難であり,解析がそれほど進められていない.こうした問題が,データ解析を遅延させた.
|
今後の研究の推進方策 |
分光顕微鏡に関しては,実験方法は決定したが,本研究に適した装置により最適化していく必要が有る.ミオシン分子間の協同性については負荷依存性を検討することが重要であり,そのためには分光顕微鏡に光ピンセットを組み込む必要がある.さらに,分光像とともに実像を同時にモニタリングする必要があり,そうした光学系をシステムに組み込んでいく必要が有る.こうした点を踏まえて,今年度は分光顕微鏡を申請者のもつ顕微鏡に組み込んで,実験を繰り返していく. また,ガラス基板の表面処理法も最適化されたので,金コロイドによる実験を再開していく.まずは,ミオシンに標識した金コロイドが非特異的にガラス面に結合していないか確認するため,アクチンとATP非存在下で硬く結合させ,アクチンにビーズをつけて光ピンセットで引っ張り,アクチンの動きと相関して,ミオシン頭部の金コロイドが変位するか確認していく.こうした検証実験での確認の後,金コロイドの実験を再開していく.
|