本研究課題では,骨格筋ミオシン分子間力発生の協同性を検証するために,長さ1ミクロン程度のミオシンフィラメント上におけるミオシン2-3分子の動態を直接捉える計測に挑戦してきた.特にミオシンフィラメント片側半分の約400nm程度に位置するミオシン2-3分子の動態を個別に捉えるためには,回折限界内の分子の運動をとらえる必要がある.そこで,東京大学上田正仁教授のグループが開発された超解像イメージング法を用いて,回折限界内の約200nm程度の間隔に位置するミオシン2-3分子の動態を個別に抽出することを試みた.これらの分子は制御軽鎖にビオチンタグを入れてあるため,アビジン化量子ドットで標識することが可能であり、1点にみえる元の蛍光輝点が超解像イメージング法により2-3粒子の輝点に分離され,各ミオシン分子の動態を個別に検出できるようになった.このような超解像技術を用いて,1秒間に100フレームという高周波数で回折限界内の数分子をとらえた事例はなく,非常に注目度が高い将来性のある手法を確立出来たと感じている.我々の実験では,レーザーを絞り40ミクロン四方の範囲において高光密度で量子ドットを励起するため,取り得る限界のフォトン数にて量子ドットの蛍光像をEM-CCDカメラに撮ることが可能であり,100フレーム/秒の高速撮影でも3nmの精度での計測が可能となった.実験結果を解析すると,アクチンとの相互作用前には各ミオシン変位間の相関は殆どないが,アクチンと相互作用が始まると時折相関が非常に高くなることが確認され,各分子の動きが同調してくる傾向が示唆された.またこれまでは全く測られたことの無い,アクチンと相互作用時のミオシン頭部のゆらぎ範囲も見えて来た.今後はATP濃度や負荷を与えるなど外部環境変化を変えて各分子動態の変化を評価していく予定だが、そのベースとなる実験系の構築に成功した.
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