研究領域 | 少数性生物学―個と多数の狭間が織りなす生命現象の探求― |
研究課題/領域番号 |
26115704
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
斉藤 稔 東京大学, 総合文化研究科, 助教 (20726236)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 生物物理 / 触媒・化学プロセス / 化学物理 / 細胞・組織 / 確率論 |
研究実績の概要 |
現在までにおいて、化学反応における分子の少数性効果は様々な例が報告されて来たが、これらの現象を統一的に理解する枠組みが存在しなかった。本研究では化学平衡状態における濃度分布に注目し、少数性効果を数理的に特徴づける手法を確立した。この手法により、今まで明確に定義されてこなかった少数性効果を、数理的に定式化でき、過去に報告されて来た少数性現象を統一的に理解できる。また「いくつからが少数なのか」などといった問題にも答えることができるようになった。 上記のように少数性効果を明確に定義できるようになったため、与えられた化学反応に対して、その系が少数性効果を持ちうるのか持ち得ないのかを判別可能になった。この手法を用いて1、2種の化学種からなる単純な化学反応モチーフを全列挙し、どのモチーフが少数性効果を持ち得て、どのようなモチーフが持ち得ないかのリストを作成した(コアモチーフの列挙)。このようなモチーフのリストは、実際の生体内化学反応における少数性効果を探索する際に非常に重要なヒントになりうる。また、in vitroで実際に少数性効果を持つ系を構築するといった合成生物学的アプローチを可能にすると期待される。 実際にリストアップした少数性効果を持つモチーフには全てにおいてポジティブフィードバックが含まれていた。ここからポジティブフィードバックが少数性効果に非常に重要な役割を果たすことが推測できる。これは生体内化学反応においてポジティブフィードバックを持つ化学反応経路(細胞極性形成反応、免疫反応など)において少数性効果が重要な役割を担っている可能性があることを意味している。 上記はすべて平衡化学反応系についての研究であるが、非平衡系においても少数性効果は出現しうる。このような例として、少数になると化学反応のフローが逆流するような少数性効果の存在を示し、解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
少数性効果を明確に特徴づける手法を確立できたため、交付申請書に記した少数性効果を示しうる反応モチーフの列挙が可能になった。実際に、1,2種の化学種からなる単純な化学反応モチーフにたいして、少数性効果を持ちうるネットワークモチーフのリストを作成できた。そのため現時点で、研究の要となる部分は完成したと言える。 また、提案した手法により、化学反応の少数性効果の基礎理論を、少なくとも平衡系においては構築できたため、研究計画はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
化学反応の少数性効果について、現在まで様々な報告がなされているが、生体内反応として生体機能と密接に結びついた少数性現象についての報告は極めて少ない。このような例を発見し、解析できれば細胞生物学上、あるいは生物物理学上の大きなパラダイムシフトになりえる。このような背景のもと、本研究課題では少数性効果を起こす化学反応モチーフの列挙・探索を通して、少数性効果現象が生体機能として積極的に用いられている例を探索することを最重要の目的としていた。 前年度の研究において、ポジティブフィードバックが少数性効果を引き起こす上で非常に重要であることがわかったため、このようなポジティブフィードバックを持つような生体内化学反応系を中心に少数性効果の有無を詳細に調べていく予定である。必要があればより実際の系に則した詳細な数理モデルを構築し解析を行う。 またポジティブフィードバックを持つ化学反応以外においても、少数性効果が生体機能に密接に関わっていると思われる例が存在すれば随時、詳細に解析していく。 また少数性効果の基礎理論の構築も同時に目指す。前年度の研究において、平衡状態における少数性効果の基礎理論はほぼ完成したと言える。しかし一般には、非平衡においても少数性効果が生じうる。また定常状態の性質以外にも緩和過程など、ダイナミクスの面で少数性効果が生じる例も報告されている。前年度に構築した理論をこのような系にも応用できるよう、提案理論の一般化を目指す。 並行して、in vitroの系で実際に少数性効果を持つ系を構築できないか、合成生物学の専門家と議論し共同研究などを目指す。
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