ビブリオ菌は細胞の極に1本だけべん毛を形成する。極べん毛の位置と本数は、GTPaseのFlhFが正に、同一オペロン上のATPaseであるFlhGが負に制御することがわかっている。昨年、ATPase活性の高いFlhG変異体はべん毛本数を強く負に制御するが、ATPase活性を失った触媒部位の変異体でも本数を負に制御する活性が維持されていることを見出し、FlhGのATP結合能が機能に必須であることを論文にまとめて発表した。ATPの加水分解は、べん毛形成を1本のみに厳密に制御するためのファインチューニングの役割を果たしていると考えている。本年度は、FlhGのATP結合能を生化学的に検証することを目的として、精製したFlhGがアイソトープで標識されたATPに結合するかどうか検証を試みた。ところが、FlhG自身の凝集しやすい性質が解析を阻み、ATP結合を評価できなかった。次にFlhGが凝集する条件を検討したところ、ATPase活性が高くべん毛本数を強く負に制御するD171A変異体は野生型に比べて凝集しやすく、ATPを加えるとその凝集性が増すことがわかった。ATPase活性と凝集性には構造を介した相関があると考えられる。精製したFlhGの動的光散乱解析、及び細胞破砕液を分画して得た可溶性画分のゲルろ過クロマトグラフィーの結果から、同じファミリーに属するMinDとは異なり、FlhGは細胞質においてATP存在下でも単量体として存在する可能性が示唆された。FlhGはATP依存的に極に移行すると構造変化し、べん毛本数を負に制御する機能を発現している可能性を考えている。また、FlhFの細胞極における分子数の計測を、昨年度作成したFlhF-Venus融合タンパク質発現株を材料として、共同研究先の一分子観察が可能な顕微システムを用いて行った。10数個のFlhFが極に存在する様子が見え始めている。
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