研究実績の概要 |
本研究において、2年間(平成26・27年度)の研究期間で、細胞内外の効果分子により、情報変換チャネルの興奮および抑制を定量的に解析することを目的に研究を進めた。初年度(平成26年度)は、嗅細胞内で機能する情報伝達因子の時空間的分布と作用を明らかにする。情報変換システムのセカンドメッセンジャーであるcAMP・Ca2+は高surface/volume ratioを持つ線毛内では細胞内空間とは異なり、低濃度でも高協同性を引き起こし、効率的なシグナル伝達に貢献している。その機構を明らかにするべく、単一嗅細胞から局所的な電流記録を行い、生理状態での分子挙動を検証した。次年度(平成27年度)は、細胞外の少数分子による情報変換チャネルの抑制機構を検証した。匂い物質はそれ自体が単体の化学物質であるため、単一化学物質に対するチャネル活性抑制を示すが、その中でも2,4,6-Trichroloanidole(TCA)は特に強い抑制能を有し、市販されているチャネルブロッカー(L-cis diltiazem)の100倍程度である。更に、その最小有効濃度はサブフェムトモルであるが、作用機序は知られていない。極低濃度溶液に含まれる少数のTCA分子が線毛に高密度に発現している情報変換チャネル活性を抑制する可能性を探索した。有力な可能性の1つとして、TCAが高いLogD(3.95)を有していることより、細胞に投与した際に、チャネルタンパク質へ直接作用するよりも、チャネル周囲の膜に影響を与え、間接的なチャネル活性の抑制が示された。これらの研究より、少数の機能分子が嗅細胞の内・外から作用することで「匂い」の感覚を修飾する可能性を検証した。
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