細胞内におけるゲノムの「数」は,真核細胞であれば有糸分裂において様々なモータータンパク質等の協同的作業により制御されている.大腸菌などの原核細胞では,高度な制御機構がないものの,成長・分裂過程において1細胞あたり1ゲノムDNAがうまく入るようになっている.JunとMulderは,大腸菌の細胞膜・壁内の非常に小さな領域に押し込められたゲノムDNAのモンテカルロシミュレーションを行い,DNAがエントロピー的に自己排除する効果でDNAの分配が遂行されるという説を提唱した.また,Erringtonの研究グループは,細胞壁や分裂に必要とされるタンパク質を持たないバクテリア(枯草菌)でも,増加した膜がちぎれるように分裂し,増殖することが可能なことを示した.これらの報告は,原始的な細胞またはモデル細胞が成長して分裂する際に,特別な機構を持たずとも倍加したDNAが均等に分配され得ることを示唆している. 本研究では,モデル細胞膜としてジャイアントユニラメラリポソーム(GUV)を用い,それが細胞分裂様に変形する際に,中に封入したゲノムサイズのDNAがどのように分配されるかを検証した.具体的には,長さが約1.6×10^5塩基対,回転半径が約1μmであるT4ファージ由来のgDNAを直径5~20μm程度のGUVに封入し,浸透圧ショックを加えることで分裂様の変形を誘起した.また,細胞内の混雑環境を模擬するため,分子量20k Daのポリエチレングリコール(PEG)を0~8wt%の濃度で共封入し,その影響を調べた.その結果,DNAが変形した娘細胞膜に比較的均一に分配されるには,膜変形の速度が影響すること,また,GUV内が混雑環境にある場合,速い膜変形においてもDNAの分配が実現されることを明らかにした.
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